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第45回:今、出会えてとても嬉しかった本

こんにちは、あみのです。今回の本は、小野寺史宜さんの『ひと』(祥伝社文庫)という作品です。

2019年の本屋大賞にノミネートされていた1冊というのもあり、単行本時から本屋でよく見かけた作品です。「この2文字にどのような思いが込められているのだろう」と今までずっと気になっていました。

先日、今年の本屋大賞が発表されたときに、ふとこの本の存在を思い出しました。数年前にノミネートされていた『ひと』という作品、そろそろ図書館で借りて読みたいなと。

そんなことを思い出した後日、本屋にて新刊を物色していた際にこの作品が文庫化したことを知りました。文庫なら手軽に読めるし、これも何かの縁なのではと思って即購入を決めました。

私は最近、「大学を卒業した私は、これからをどう生きていくべきか」ということに凄く悩んでいます。今作は、悩みに対するひとつの答えを教えてくれたとても大切な物語になりました。

人生に悩んだときに思わず読み返してしまいたくなる、ここ最近に読んだ中でも特に印象深かった1冊です。

あらすじ(カバーからの引用)

女手ひとつで僕を東京の私大に進ませてくれた母が急死した。僕、柏木聖輔は二十歳の秋、たった独りになった。大学は中退を選び、就職先のあてもない。そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられた砂町銀座商店街の惣菜屋で、最後に残った五十円のコロッケを見知らぬお婆さんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。本屋大賞から生まれたベストセラー、待望の文庫化。

感想

読み始めてすぐの感想は「コロッケとメンチカツ美味しそう」でした。しかし、今作はいわゆる「飯テロ」に重点を置いた内容ではありません。

物語は母を亡くし、人生が大きく変わってしまった聖輔が、これからを生きていくために、「おかずの田野倉」で働くことを決意するところから始まります。

年齢はバラバラで、厳しいことを言うときもあるけど、温かく聖輔のことを支えてくれる「おかずの田野倉」の仲間たち。彼らを見ているとなんだか私がアルバイトを始めた頃を思い出してきました。

接客をしていると、時には知っている人に遭遇することもあります。地元での同級生だった青葉との思わぬ再会は、聖輔にとって「おかずの田野倉」で働くことを選択したのと同等のターニングポイントだったと思います。

地元での思い出を回想したり、2人でデート?を楽しんだりしていくうちに青葉を「特別な女性」として意識する聖輔の気持ちの変化にも胸が熱くなります。ラストシーンの先で、2人はどのような関係になったのか気になりますね。

私が印象に残ったのが、聖輔と趣味の向き合い方を描いた箇所です。彼は以前より音楽が好きで、大学在学中もバンドを組んでいました。しかし、母の死を機に生活のために好きだった音楽を手放すことを決意します。

音楽を手放したことは今の自分には「仕方ないこと」だと思っていた聖輔。しかし、高校時代から音楽と向き合う聖輔が好きだった青葉としては、彼の選択に納得していないところがありました。

また、聖輔には亡き父の影響で調理師の資格を取るという目標があります。「おかずの田野倉」を働く場所として選んだのにも、調理師の資格を取る際に役立てるのではと思ったことも理由にありました。

作中にて料理人だった亡き父のことを知るため、父の知人を聖輔が訪ねる場面がありました。家では知らなかった父の姿を知った聖輔は、より資格への意識を高めていきます。

「(前略)前にも訊いたような気がするけど、聖輔くんは今いくつだっけ」
「二十一です」
「二十一。いい時期ね。何でもできる」
「でき、ますか?」
「できる。やんなさいよ。プラモデルをつくるのは六十代でもできるから、二十代にしかできないことをやんなさい
「何をやればいいですかね」
「それは自分で考える。時間はね、あるようでないよ。四十年なんてすぐに経っちゃう。気づいたら、できないことだらけになってる。そのときにあれをやっとけばよかったなんて思わなくてすむよう、がんばんな」

上記の引用箇所は、私が今作を読んでもっとも心に残った聖輔と滝子さんの会話の部分です。何気ない会話かもしれないけど、私はこのやりとりにとても勇気を貰いました。

滝子さんの旦那さんが60代になった今、プラモデルに夢中になっているように、聖輔が「音楽」という趣味と向き合うことはいつでもできます。

だけど、調理師の資格のような今後の人生にも直結する挑戦は、後悔しないためにできるだけ早くした方がよいことだと思います。

「おかずの田野倉」は聖輔にとって充分な「居場所」になっていたのは確かだけど、将来を考え「おかずの田野倉」で働くことを辞め、別の食に関する仕事に挑んでみることは立派な判断だと思いました。

調理師の資格を取ることは難しい道ですが、聖輔が悩んだ時はきっと「おかずの田野倉」の仲間やこれまでに出会ってきた友達が助けてくれると思います。

「家族」という存在を失っても、同等に彼を支えてくれる人たちはそばにいる。そして、いざという時に力になってくれる。これこそが『ひと』というシンプルなタイトルに込められた作品の思いではないでしょうか。

職場の人や青葉も温かな心の持ち主で印象深かったですが、個人的には大学在学中の友人である剣(つるぎ)との関係性が好きでした。

聖輔は大学を「中退」という選択をしました。学校に行かなくなったら途切れてしまう友情も世の中には結構あると思うのですが、聖輔と剣の場合は聖輔が大学を辞めてからも今まで通りの友情が続いていました。

近況や恋愛の話で盛り上がる男同士の友情が時折挟まれるところには、とてもほのぼのとした気持ちになれました。

学校を辞めたから友達もやめるのではない。本物の絆を感じた2人の友情はこれからも続いてほしいですね。

また、ほかにも今作を読んで気づいたことがあります。それは、今の私がこれからの生き方に凄く悩んでいたのは、「何をして生活を支えたいか」が自分の中ではっきりしていなかったからだったということです。

聖輔の場合は、「生活のために、調理師の資格を取る」というはっきりとした目標がありました。しかし、私は彼とは違って大学を卒業したら何がしたいのかが曖昧なところがあります。

今はたくさんの人と関わって「自分は生活のために何をしたいか」を模索し、息抜き程度に趣味を楽しむ、そんな日々をしばらくは過ごしていきたいです。

今作は私の将来の選択に対するひとつのヒントを教えてくれた物語でした。ちょっと前に今作の存在を思い出し、「そろそろ読みたい」と思ったこと、そして文庫化された今作を購入して読もうとしたこと、これらの勘を信じてみて大正解でした。

これからも様々場所での「ひと」とのつながりを大切にしながら人生を楽しんでいきたいです。『まち』や他の小野寺作品も今後地道に読んでいこうと思います。

いつもよりやや長めの感想になってしまいましたが、ここまで読んで頂いた皆さんに感謝です。また大切なことを学んだ物語があったら紹介します!

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