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第5回:『魔法の声』はネガティブな現実を忘れてしまうほどの「優しい物語」

こんにちは、あみのです。

今回の本は、村山仁志さんのライト文芸作品『魔法の声』(マイクロマガジン社、ことのは文庫)です。この本を読む決め手になったのは、帯の村山早紀さん(実は作者の姉だそうです)の下記のような推薦コメントでした。

「こんな時代(とき)だもの、優しい物語(おはなし)を」

私は、村山早紀さんの「魔法」や「奇跡」を描いた優しい物語が大好きです。中でも『桜風堂ものがたり』は現代における書店の可能性を童話のような温かい世界観で描き出していて、読んでいて何度も共感した作品です。このような物語を生み出す作家さんの弟はどういった物語を描くのだろうか、そんな関心からこの本を手にしました。

ネガティブな話題が飛び交う世の中に息苦しさを感じている人に凄くおすすめです。読んでいると現実の息苦しさも忘れてしまい、読み終えた時には「ずっとこの優しい世界に浸っていたい」と思えるような1冊です。

あらすじ(帯からの引用)

12月の夜、長崎。キャスター門脇章太郎は、テレビ生放送中に「そこにいる筈のないひと」が画面に映り込んでいるのを見つけ、絶句する。
同じ夜、章太郎に片想い中の若手アナウンサー河合胡桃は、赤いマフラーが似合う謎めいた美少女と夜道で出会う。怪しい男達に追われながら、必死に誰かを探す少女を放っておけず、力を貸すことに。
二度と会えない憧れの人。一目だけでも会いたい、約束の人。美しい長崎の街を舞台に、章太郎、胡桃、少女の想いが交錯し、クリスマス・イヴの夜に奇跡を紡いでいく―――。

感想

まず、私が今作で最も好きだった点は、小夜子(「赤いマフラーの少女」の名前です)を悪い大人たちから守ろうとするテレビ局の人々の活躍です。夜のコンビニで孤独に商品を物色する小夜子のことが放っておけなくて、思わず助けてしまった胡桃の優しさ、生放送中に起きた小夜子を最大の危機から救い出すための番組の判断と、小夜子というひとりの少女の未来のために奮闘する大人たちの姿に心が掴まれました。サスペンス要素もありつつ、「人が持つ優しさ・温かさ」を感じるシーンが多いところが今作の最大の魅力だと思います。

また、2人の「小夜子」という女性を巡るちょっとミステリアスな展開にも魅力を感じました。今作には「赤いマフラーの少女」の小夜子だけでなく、もうひとり別の「小夜子」という名前の女性が登場します。

かつて章太郎たちが所属するテレビ局に在籍していた「柳原小夜子」という女性アナウンサーは、章太郎がアナウンサーになるきっかけを作ってくれた人物でした。しかし彼女は、章太郎がテレビ局に入社したと同時に彼と入れ替わる形で退社してしまいます。柳原小夜子は、胡桃が救った少女と関わりがあるのか?2人の「小夜子」のつながりをいろいろ想像しながら読み進められた点も楽しかったです。

あとインパクトのある登場人物が多かった中、個人的な推しキャラクターは、章太郎ですね。胡桃が憧れる真面目なアナウンサーとしての一面も好きなのですが、柳原小夜子をずっと長崎で見るために進路にも真剣に悩む高校生の章太郎の姿がめちゃくちゃポイント高かったです(笑)。

とりあえず内容は1冊でまとまっていたのですが、あとがきによるとこの物語は登場人物たちの始まりの物語に過ぎないとのこと。胡桃や小夜子と章太郎の関係も気になるし、何よりこの先の物語ではどんな新たな「奇跡」と遭遇するのか期待が高まります。

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