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第71回:この世界は「秘密」でできている…かもしれない

こんにちは、あみのです。今回の本は、櫻いいよさんのライト文芸作品『きみに「ただいま」を言わせて』(実業之日本社文庫GROW)です。

今作は少し変わった形の家族の「秘密」にまつわるお話。個人的にいいよさんというと少女漫画風味のラブコメや主人公の成長を描いた物語が多いイメージがありましたが、「家族」というテーマをいいよさんはどう描くのか関心を持ち、久々に作品を手にしてみました!

あらすじ(カバーより)

血のつながらない三人の家族、秘密の果てにある幸せとは…。
実の母・葛葉を幼い頃に事故で亡くした舞香は、葛葉の幼なじみのかおりとその夫・遊に引き取られる。生前の葛葉から虐待を受けていた彼女は、母への憎悪を抱き続けていた。そして、かおりと遊にも、葛葉の死に関わる誰にも言えない「秘密」が存在した。罪の意識に駆られながらも幸せを求める三人がたどり着いた真実とは!?衝撃のラストは圧巻!

感想

まず、主人公・舞香の成長の物語かと思って読み始めたのですが、読んでみると「成長」というよりは各登場人物の「秘密」で構成された物語の印象を持ちました。

実の母(葛葉)は事故死しているため、現在は葛葉の知人であるかおり&遊夫妻のもとで舞香は生活しています。舞香のクラスメイトの中には、彼女の独特な家庭環境を「かわいそう」だと感じている子もいます。しかし、舞香にとっては葛葉との生活よりも今の生活の方が圧倒的に良いと思っています。その背景には、葛葉から日常的に虐待を受けていた舞香の辛い記憶がありました。

2章以降、葛葉の人物像やかおりたちが舞香を引き取った理由が明かされていきます。家族から愛されず、かおりや遊に居場所を求める葛葉の姿には読んでいて痛々しい気持ちになりました。でも、家族に愛された経験がないからといって自分で産んだ子どもに同じような思いをさせるのはどうかと思うが。かおりが葛葉の教育に激怒するのも非常にわかります。

今作は先ほども述べたように登場人物たちの「秘密」で溢れていた物語でした。人それぞれ隠しておきたい感情はあるし、世の中には知らなくてもいいこと、あるいは知ってしまうと逆に損することだってたくさんあると思う。そんなことを今作から私は感じました。

かおりが葛葉の代わりに舞香の「母親」になろうとしたきっかけ、葛葉の死に隠された遊の不安。これらの「秘密」を今の舞香が詳しく知る必要はないと思います。でも、大人たちが隠していた「秘密」があったからこそ、舞香は少しずつ「幸せ」を手に入れることができたのではないのでしょうか。

血のつながりはないけれど、かおりにとって舞香は自分で産んだ子どもそのものと同じ。葛葉が与えられなかった愛を受けていく舞香は、きっと良い大人に成長すると思います。かおりも舞香のおかげで叶えられないと思っていた夢を実現できて良かったですね。

家族という身近な関係だけでなく、そもそもこの世界が人々の「秘密」によって成り立っているのかも。そんなことを思わず考えてしまうような1冊でした。

***

ここまで感想文を読んで頂き、ありがとうございます。私が思っていた話とは違いましたが、いろんな世界の見方を知るきっかけとして読んでみて良かった作品なのは確かでした。今作にていいよさんの新たな魅力にも気付けたので、未読の作品で興味のあるものがあればまた読んでみたいと思います。

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