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第10回:『君と見つけたあの日のif』で「後悔しない生き方」を改めて考える

おはようございます、あみのです。今回紹介するのは、いぬじゅんさんのライト文芸作品『君と見つけたあの日のif』(PHP文芸文庫)です。

私は高校生の時に『いつか、眠りにつく日』を読んで以来、いぬじゅんさんの作品がずっと大好きです。この作家さんの物語は、「生きることの大切さ」や「後悔のない生き方」を教えてくれる内容が多く、シンプルながらも奥の深いテーマから学んだことが沢山あります。また、登場人物の人柄や物語の世界観もとにかく優しく、私にとっていぬじゅんさんの作品はひとつの「居場所」みたいな感じなところもありますね。

あらすじ(カバーからの引用)

元・人気子役で高校生の杉崎結菜。幼い頃から仕事をしていたため友達もおらず、オファーが減ったことで両親も不仲に。それでも、所属する浜松の劇団で懸命に演技を学んでいたが、ある日劇団の経営が行き詰っていることを知る。その危機を救うため、座長から「レンタル劇団員」として、ある家族の娘になってほしいと頼まれたのだが……。自分の居場所がないと悩む全ての人に贈る、心温まる成長物語。

感想

読んでまず思ったことは、「身近な人こそ、いついなくなるのかわからない」ことです。今の私は、家族と共に生活していることが「当たり前」だと思っています。だけど、その当たり前は明日には失われているかもしれません。結菜が「レンタル劇団員」として訪れた夏見家も、事故で大切な家族を失っているという過去を背負っていました。

私は、夏見家のおばあちゃんが話した後悔しないための生き方のお話が特に心に刺さりました。「家族と一緒にいる時間は、永遠には続かないこと」、「もし大切な人を失った時に悔いのないよう、伝えたい思いは必ず相手に伝えること」をかつて結菜が出演した演劇の内容と重ね合わせながらおばあちゃんは話してくれました。

結菜はテレビでの活躍にばかり期待する両親に不満を持っており、「家庭」という空間に息苦しさがあるように序盤は感じました。レンタル劇団員として夏見家で別人を演じながら生活したことは、確かに彼女にとって大きな成長になったと思います。でも、この成長に最も貢献した人物は素敵なお話をしてくれたおばあちゃんではないでしょうか。

おばあちゃんが教えてくれたことは、「本物」の自分の家族と改めて向き合うきっかけになったことはもちろん、今後の役者としてスキルアップへのモチベーションにも繋がっていると思います。この試練を乗り越え、新たな目標を見つけた結菜はきっと良い役者として伸びていくと思うし、いつかずっと気になっていた拓也に告白できる日が訪れてほしいです。

また、レンタル劇団員によって失われた家族の時間を少しでも取り戻すことができた夏見家ですが、一方で夏見家のお母さんはネガティブな気持ちがまだ残っていたところがありました。家族を事故で失ってしまった苦しみは、きっと「本物」の夏見家の人たちにしかわからない感情だと思います。

だけど、お母さんも今を生きている人間であることは確かであり、彼女を愛している人はこの世に沢山いること、そしてお母さんには失ってしまった家族の分まで生きていく必要があることを結菜から学び、少しずつ生きることに前向きになっていく姿も印象深かったです。

最近のいぬじゅんさんの作品は、ミステリーに力を入れすぎていて感動が物足りない印象がありました。今作にもちょっとしたサプライズはありましたが、私たちが生きる理由や身近な人と過ごす時間の大切さを描いていた部分が圧倒的に強く、本当のいぬじゅん作品の魅力を伝えきれていた内容だったかなと思います。他作品でもよく述べられていますが、「生きる」ことって本当に素晴らしいことを再認識した良作でした!

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