雨夜(あめよ)

雨夜(あめよ)

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紅めく飲み街のお飲みさん

屋上ってのは落ち着くもんだ ここに居りゃ街の喧騒もおっさんどもの怒鳴り声も関係ありゃしない 真っ赤に燃える街灯すらここには届かない 人生何計逃げるに如かず 人生逃げ道も必要ですってお偉いさんもはしゃいで言ったんだろうしおそらく正解 「はぁ…。」 行きつけの休憩場所。いつも行ってる飲み屋の屋上 なんか知らないけどバーのマスターが許してくれたアタシの部屋 せめて壁か天井でもあれば良いけど、そんなものより最高な事は、ここは言いようによっちゃベランダしかない タバコもパイプも吸い放

    • 蜃気楼の新喜劇

      ふと気が付くと私は歩いていた どこを?かと問われても困ってしまう どこかもわからない ただ草ひとつ生えない砂漠をだ。 だが不思議なものだ。 何もない砂漠のはずなのに 都会の喧騒のような ガヤガヤと話す人々がいるような コトトッコッコトとたくさんの人の歩くような そんな音も聞こえてくる 私の身体にも不思議なことが起きている 何もない砂漠なのだ まっすぐ歩けば良いはずだ しかしなぜか不意に右に折れた方がいい 左に折れた方がいい そんな事を思う 不思議な砂漠だ。 私はなぜかこの

      • 特別ないつもの日

        「〜さ、それで…の後輩ちゃんがさ」 「うんうん!」 「〜を自分も…とか言い出したんだけどね」 「うんうん!」 曖昧な返事を返す私 大学から帰ってすぐ。 一人暮らしのアパートにこだまする貴方の声を半分聞きながら慌ただしくあっちこっち 一人暮らしの女学生はすることたくさん。 手を洗ってうがいして コーヒーメーカーにお水入れてスイッチストーン! それから脱いだ靴下をとりあえず洗濯カゴにシュート 郵便受けに届いてたハガキの確認。 ベランダの物干し竿には? 「〜とに!相変わらず…は忙し

        • シンカイ

          蹴られた腰を支えに 痣の隠れた腕で身体を起こした いつも通りにひび割れたガラスの前 ゆがんだ輪郭の笑顔を浮かべてみた 陽の通らない部屋 私を叩いて割れた瓶 傍らに寝る女は破壊音を立て、寝る 散らばるガラス 足に突き刺さって痛い。 そんなことに気を割く余裕は 奪われて消えていった 神様なんていなくて。 保護者なんていなくて。 救いなんて言葉はただの麻酔薬で。 歩く景色はことごとくひび割れていくの 自分に向けられるものは紅色で 黒の世界になぜかそれは煌々と光って キャアキャ

        紅めく飲み街のお飲みさん

          笑顔でさようなら。またねと言えたら

          「みなさん、こんにちはー!」 にこやかに始まる配信の挨拶。 それが俺らの当たり前で。 それがいつもの日常だった。 勉強しながら。寝落ちかけながら。 ただ耳を傾けていたよな。 なだらかに進む時間は実はとても早くて。 のんびり歩く歩道は案外獣道で。 それに気づかないように。 それを隠すように。 あなたの明るい声が耳に届く。 疲れたなんてこぼす俺たちに。 歩くって、大変なんだぞ 笑うって難しいんだぞ だからね、みんな 生きててえらいぞ!! 突き抜けるような笑顔でそういってくれ

          笑顔でさようなら。またねと言えたら

          じいさまの感謝状

          免許証を返納してから早三年が経とうとしていた 「車さえあればこんな道、すぐだというのに…」 「あいつもあいつじゃ。せっかく来たのなら送迎くらいせんか」 そんな悪態が口をつく。 歳で震える脚をグイと出す。 「待っていろ。ばあさん。 お前に伝えねばならんことがある」 急勾配の上り坂を 老体に鞭を打ち ただひたすらに登ってゆく あの日もこんな風に紫陽花が咲いておった。 「娘さんが…」 久々に役割を与えられた固定電話 その役割はわしらの心を砕くものであった 交通事故。 高速道路に

          じいさまの感謝状

          夢見るマリオネット

          お酒が残った身体を突き動かして 貴方のいるベッドから身体を起こす 朝の5時。おはよ。 眠気の残った身体に皮肉を込めたご挨拶 今日の調子はどうかしら。 鏡に映った私。 ボサボサの黒くて重たい長い髪 くまのついた暗い目 今日も元気なさそうね。結構よ 朝の支度を始めましょう まず歯磨き。次お風呂で。ご飯も作らないと。 とりあえずコーヒーをオンにして。 香水はどれが好きだったかしら。 彼を起こさないようにと 朝から静かに それでも急がないと終わらないから 静かにあちこちパタパタ

          夢見るマリオネット

          〜隠しレター〜

          あっちの喫茶店行こ 一緒にスイーツ食べよ あ。甘いもの嫌いだっけ。 じゃあショッピングモールがあるよ ウィンドウショッピングしようよ でも、退屈って言ってたかな なら公園でのんびりしよう? 綺麗な青空が見えるよ お弁当持ってたらなぁ そんなことを考えて あなたの前だと黙ってしまう いつも明るい私が いつもよく笑う私が いつも楽しく話す私が あなたに笑って欲しくて あなたに好きなままで居て欲しくて あなたと一緒に居たくて ぐるぐるたくさん考えて あなたの前だと黙って

          〜隠しレター〜

          〜助手席ミラーサイド〜

          しとしとと雨音が聞こえる 今日は彼とのデートの日 星を見たいなって私が言った また天気予報に裏切られた。 私が頼むといっつもそう。 そんなことを思っていた。 「よし。行こっか」 そんな明るい声に引っ張られて私たちは家を出た。 「雨なのに?」 「きっと晴れるから!」 窓に映る私はどう見たって不機嫌だ。 ピピッ。 無機質な音が鳴って車の鍵が空く。 「はい、お嬢さん。助手席どーうぞ。」 なんてあなたがいう。 「ありがと…」 顔を背けながら呟くようにそう言った。 なに、その

          〜助手席ミラーサイド〜