蜃気楼の新喜劇

ふと気が付くと私は歩いていた
どこを?かと問われても困ってしまう
どこかもわからない
ただ草ひとつ生えない砂漠をだ。
だが不思議なものだ。
何もない砂漠のはずなのに
都会の喧騒のような
ガヤガヤと話す人々がいるような
コトトッコッコトとたくさんの人の歩くような
そんな音も聞こえてくる

私の身体にも不思議なことが起きている
何もない砂漠なのだ
まっすぐ歩けば良いはずだ
しかしなぜか不意に右に折れた方がいい
左に折れた方がいい
そんな事を思う
不思議な砂漠だ。

私はなぜかこの砂漠に
居心地の良さを感じ始めた
どこまで行っても辿り着かない感覚
何をしても周りが見ていない安心感
不意に囚われる寂しさすら
砂漠に吹く一塵の風のようで高揚した

歌でも歌いたくなって
「る〜るるっふ〜っ!?」
と声を上げた
なぜか持っていたカバンを振り回したくなって
「やぁはぁやぁっ!」
と書類でいっぱいのカバンをぶん回した
踊りたくもなるさ!機嫌が良いのだもの
「きゃんっ!!!!」(ぴびーっ!)
何かに当たる感覚がしたがここは砂漠だ
あり得るはずもない
………はずもないが?
するとどうしたことか
都会の喧騒の音は止み
砂塵の嵐に襲われた
なんだなんだ!?
この嵐はなんだ!?
突然過ぎて呆気に取られた
急いで帰らねば!!
私の家はどこだ!?

そんな砂塵の嵐でも体は不思議なもので右や左がわかってくれた
走り出せば砂塵の嵐も都会の喧騒も元通りになったような気がしなくないが
それでも一度ざわついた心は戻らない
もつれる足で走って走って
走って走って…
そして…
不意に吐き気に襲われて私は地面に倒れた

そこは硬く冷たいアスファルトだった
雨降り頻る夜に街灯は眩暈がするほど眩しく
いやその光は私に近づいてくるようだった
やがて不思議なドンという音が鳴り
私は光に包まれた

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