〜助手席ミラーサイド〜

しとしとと雨音が聞こえる
今日は彼とのデートの日
星を見たいなって私が言った

また天気予報に裏切られた。
私が頼むといっつもそう。

そんなことを思っていた。
「よし。行こっか」
そんな明るい声に引っ張られて私たちは家を出た。
「雨なのに?」
「きっと晴れるから!」
窓に映る私はどう見たって不機嫌だ。

ピピッ。
無機質な音が鳴って車の鍵が空く。
「はい、お嬢さん。助手席どーうぞ。」
なんてあなたがいう。

「ありがと…」
顔を背けながら呟くようにそう言った。

なに、そのそっけない返事。
本当に…

可愛さ、どこに忘れてきたのかな。
窓に軽く泣きそうな私が映る。
遮るように扉を開けた。

「そんじゃあ行きますかぁ」
「…………」

窓を流れる夜景
暗い市街地
速くて線になる電灯

車窓から流れる景色はことごとく雨に濡れていた。
それでも助手席ってだけで気分が上がる私は案外単純なのかもしれない。

助手席なんて乗ったことは無かった
いつも遠慮しちゃって
私がずっと避けてた場所

あなたがどうしてもっていうから。
初めて乗った

…私の大好きな場所

ふんふん〜。って楽しそうに歌う彼
下手なのよ貴方
カラオケだって点数低いし

そんな歌が好きなんて
恥ずかしくて口が裂けても言えやしない

流れる景色に飽きて
首だけで運転席の方を見る
ハンドルを人差し指でトントンしながら
下手くそにリズムをとるあなた

ん?って貴方がこっちを向いた
「事故るよ。前向いて」

じゃないと、とろけた私の顔が見えるでしょ
あなたの好きな澄ました私は離席中なの

あなた越しに窓に映る私。
…ニヤニヤしちゃってさ。
さっきの暗い顔はどこに行ったの?

本当に嬉しそう
本当に…幸せそうな顔しちゃって。

だって、誰より好きなんだもん
そんな言葉が聞こえた気がした

「回り道しよ」
そう呟いた。
隣の彼が笑う。

きっとまた めいっぱい遠回りしようとして
また私が止めると思ってるのね

「ここ次の次で右に大回りしちゃうね!」
「もう次で曲がって」

驚くあなた。
ふふっ。て笑う私

こんな寄り道もたまには、ね
貴方との宝物なんだよ

「ほら見て!やんできたよ!」
はたと顔をあげる
空に少しの星が見えた

「そんなに嬉しい?」
茶化したように笑う貴方。

「うっさい。」
逸らした目線の先に耳まで真っ赤な私がいた。


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