衝動的な夜に
「大塚さん、今日、髪切ることってできますか? 今日なら何時でもいいです……」
LINEの着信音に気づき表示された言葉にどきりとする。
時間は21時。21時でも営業している美容室はあるが、雨とランプはすでに今日の営業を終了しており、私の右手には缶ビールがあった。
連絡をくれた志田さん(仮)はオープン当初から足を運んでもらっており、この時間は営業を終了していることも知っていてLINEをしているので、すぐにただ事ではないことが分かった。
何が起こったのだろうか。明日急に大切な人と会う約束になったのだろうか。あるいは料理をしていたら火の粉が髪にあたり焼けてしまったのだろうか。火傷していないだろうか。
などと想像していると続けてLINEが届く。
「衝動的にやってしまいまして……!」
何をだろう。私の場合、衝動的にしてしまうものに、夜の散歩がある。季節によって外の匂いが変わる。その匂いを感じつつ歩くと、いつも見ている景色に様々な色を感じる。足の疲れを背負いつつ、自分だけの時間を味わう。現実世界で、「もうだめだっ!!」って思った時に衝動的に行ってしまう。たぶん、志田さんの衝動は同じではないだろうが。
「もう衝動的に自分で自分の髪を切っちゃって、死ぬほど後悔してます。明日でも大丈夫です」
わかる。髪って衝動的に切りたくなるよね。結局髪を切るのは次の日になり、LINEは終わる。
志田さんはストレスを感じていたのだろうか、あるいは、爆発的な感情に襲われたのか、明日はそのあたりも尋ねよう。話すことで楽になることも、それ以外の話をして楽になることもある。明日の反応次第で話題を変えていこう、などとほろ酔い気分で考える。
衝動的に髪を切りたくなる。症状に名前があれば、もう少し自分で切る人も減るのだろうか。私はその晩、衝動的な散歩に繰り出した。次の日、志田さんは自身で切ったウルフカットヘアで来店。衝動的になった昨晩、それが生きていることに繋がると感じる。
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