【記憶の陰影】


ごくたまに思い出すことがある。

高校生の頃、委員会が同じで少しだけ会話を交わすくらいだったあの子。

よく図書室にいたなあ。休み時間には、だいたいいつも見かけていた気がする。


みんな彼女とはあまり関わろうとしなかった、なんか変だったから。

異質な存在は学校という場所では忌み嫌われ、無条件に隔離される。

だから、みんなには視界の端でそれとなく捉えられた風景の一部に過ぎなかったのだろう。

曖昧な記憶の中で彼女の背中は少しだけ薄れそうな、でも、確かにそこに存在していた。


寂しさを抱えていたのだろうか、孤独だと嘆いていたのだろうか、今となっては直接確かめるすべも無いのだが。


それに、例え何かの機会にばったりなんてことがあったとしても、そんな昔のことは覚えていないかもしれない。

たまにあげられるSNSの投稿を見るたび、そこにはいつも幸せそうな彼女が居る。

その事がなぜかとても嬉しくて、救われた気持ちになる。

大した関わりもないくせに。


私にとっても、彼女にとっても互いの人生に大きな意味を持たなかった二人。


無意識の中でわたしは彼女に親近感を覚えていたのかもしれない。

今なら、もう少し近づけたのかもしれないとも思う。

あの頃の彼女が報われたことで、私の中で罪悪感のような後ろめたさが消えた気がした。



#短編小説風



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