マガジンのカバー画像

文章作品

2
運営しているクリエイター

記事一覧

忘れ得ぬモラトリアム

忘れ得ぬモラトリアム

最近になって、行きつけのカラオケ店が休業した。再開の目処も立っていないようで、もしかしたらこのまま潰れてしまうかもしれない。中学生の頃サッカーの試合で訪れた有名企業のグランドは今では住宅地となり、高校の時付き合っていた彼女のアパートは既に取り壊されて綺麗な一戸建ての物件が建てられていた。僕が通っていた保育園や小学校も建て直されており、当時の記憶が実存していたものなのかを図ることが難しくなっていた。

もっとみる
あの夏、

あの夏、

中学最後の夏は思っていたよりもずっと静かだった。

もちろん、蝉は時間など考慮せず四六時中唄っているし、
心臓に直接届くような花火の乾いた音を感じる日もあるのだけれど、
その全てが僕にとっては懐かしく感じられ、
今の自分と同一進行しているものだとはまるで思えなかった。

野球部として臨んだ最後の大会に敗退すると、長い夏季休暇が始まった。
あんなにも忙しく情緒的だった僕の日常は、あまりにも呆気なく過

もっとみる