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読書感想No.34『昨夜のカレー、明日のパン』

こんにちは、天音です。
今回の読書感想は、木皿泉さんの『昨夜のカレー、明日のパン』(河出文庫)です。
「五十音順作家巡り」としては「き」となります。

🍛🍞あらすじ(裏表紙)
7年前、25歳で死んでしまった一樹。残された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染など、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。本屋大賞2位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。書き下ろし短編「ひっつき虫」収録!

全ての人に時間は等しく流れる。
時が止まってしまった死者との別れは受け入れ難いが、生きている人は、それでもなお流れ続ける時間を生きなくてはいけない。

この本には、そんな痛みを伴ったやさしい受容が描かれているように思います。

7年前に亡くなった一樹とその周辺人物を描いた、9篇からなる連作短編集です。

ゆったりとした物語でしたが、ところどころ目を逸らせないような、生きることに対して大切な言葉が散らばっています。

初めの話「ムムム」に出てくるギフのセリフ。
ムムムとは、仕事のストレスから笑えなくなってしまった女性のことです。ギフが彼女の名前を思い出せないことからこう呼んでいました。

「人は、感情にも、とらわれてしまうもんですよね」
 テツコは、ただ悲しみで一色だったあの時の自分を思い出しながら言った。
「嫉妬とか、怒りとか、欲とか──悲しいかな、人はいつも何かにとらわれながら生きてますからねぇ」
とこれまた、かつて悲しみに押しつぶされそうだったギフが、ぎゅーっと蛸を噛み切りながら言った。(25,26)

この本にはどの話にも、登場人物がとらわれている何かから解放される描写があります。
悲しいことや、ままならないことがあっても、「それでも生き続ける人たち」の物語です。

「男子会」ではこのようなギフのセリフが出てきます。

「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」(253)

カレーとはすごいもので、タイトルのカレーという単語を見てから正直もうずっとこの本はカレーの味の本でした。

人の生活をゆったりと描いた小説なので、味は薄く感じます。
かなり甘口のカレーです。
この本を読んで、物足りないなと思う人もきっといると思います。

でもたまーに食べたくなるはずです。
たくさんの玉ねぎとにんじんが柔らかく煮込まれた、甘口のカレーを。

じっくり煮込むように、自分の中の悲しみが変化していく。
その悲しみから解放され、また歩き出していくことが生きるということだと、一人一人の生を肯定しているような物語でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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