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ディベートのススメ~人材育成・組織の意思決定プロセスそれぞれの効果あり

最近、僕たちはディベートを顧問先の企業などに取り入れ始めています。
先日は、日系大手企業の情報システム部門のご依頼で、組織開発のPoC(概念実証)の一環でディベートプログラムを実施しました。

このPoCが同社同部門の部長陣にも大変好評で「ディベートを人材育成の一環で本格的に導入していきたい」「育成のみならず、組織の意思決定プロセスに取り込んでいきたい」などの反響がありました。
今回、人材育成のみならず組織開発の観点でのディベートの有効性を共有します。


1.ディベートとは

ディベートとは以下のコミュニケーションスタイルを言います。

ディベートとはあるテーマに対して賛成派グループと反対派グループに分かれそれぞれの主張を展開し、ジャッジ(審判員)により勝敗を決めるゲーム

ディベートとは

ディベートはゲームである。この点が大きなミソです。何がミソなのかは後述します。

2.私たちは正しく衝突することに慣れていない

ディベートは北欧などでは初等中等教育から取り入れられているものの、日本ではまだレアでしょう。特に、今の現役ビジネスパーソンでディベートを経験した人は相当限られるのではないかと思います。

その結果、正しく議論する経験や能力が身につかず、議論=感情論の応酬や人格否定になってしまい人間関係がギクシャクしたり、コンフリクト(相手との衝突)を避けようとするあまり、意見を出すことすらせず、問題解決や課題解決が進まない。あるいは、抵抗に遭って頓挫してしまう。このような切ないシーンに僕も多々遭遇してきました。

正しく衝突する能力や経験は、私たちビジネスパーソンは新規事業創造、組織変革、共創などを進める上でも間違いなく兼ね備えておいた方が良いでしょう。

プロジェクトマネジメントの世界でも「コンフリクトマネジメント」という言葉がある通り、健全な対立や衝突を生みなおかつやりくりする能力は、ものごとを前に進める上で必要なマネジメントとも言えるのです。

そして、ディベートは組織として個人として、健全な衝突や対立と向き合う能力を向上するのに有効な手段です。

3.ディベートプログラムの一例(今回の事例)

今回、僕たちが日系大手企業の情報システム部門で実施したディベートプログラム(半日)を紹介します。以下の3部構成で実施しました。

(1)インプットトーク(テーマに対する基調講演):30分
(2)ディベート:80分
(3)グループディスカッションと発表:80分
※休憩時間は外数です

ディベートプログラムのタイムテーブル実例

今回のテーマは「市民開発を(社内で)推進すべきか否か?」

最初に、有識者(今回は僕:沢渡あまね)によるインプットトーク。
世の中の市民開発のトレンドや、企業の好事例、市民開発を社内で民主化するためのマインド、カルチャー、情報システム部門の期待役割などをお話ししました。

第一部:インプットトーク

こうして参加者の皆さんにインプットを得ていただいた後に、2グループ(肯定派、否定派)に分かれてディベート実施です。

第二部:ディベート

なお今回は賛成派、慎重派双方の論点の洗い出しにとどめ、ジャッジ(審判員)による勝敗は決めませんでした
また、本格的なディベートの試合は、肯定派グループと否定派グループがそれぞれ3~4回ずつの主張を重ねますが、今回は各々2回ずつの主張にとどめました。加えて、ゲームとして成り立たせるための、発言や主張のルールやテクニックも多々あるのですが、そこは省略しました。
ディベートを成り立たせるための訓練に時間を割くのは、今回の会の趣旨とはあっていないと考えたからです。

今回は、テーマ(市民開発)に対するさまざまな着眼点や論点を洗い出し、その後のグループディスカッションで議論を深めることに注力しました。

このように目的に応じて、ディベートのやり方を柔軟に設計して欲しいです。形式通りにディベートをやれば良いというものではありません。

最後にグループディスカッション。
インプットトークで得た知識や情報、ディベートで洗い出された着眼点や論点をもとに、「どの領域や業務に市民開発を適用していくか、どのように進めていくか」を各グループ(今回は2グループ)で話し合ってもらい、その内容を発表してもらいました。

第三部:グループディスカッションと発表

最後に、ファシリテータ(今回は僕:沢渡あまね)と企画者による講評・コメントタイム。前向きな意味づけと、「ここからどう行動につなげていくか」の意識付けが行われました。

4.ディベートの有効性

今回実施したディベートプログラムを通じ、僕はディベートに以下の4つの有効性を再認識しました。

(1)論点や着眼点の洗い出し

あるテーマに対し、さまざまな論点や着眼点を洗い出すことができる。
ゲーム形式であることにより、現実世界とは切り離した仮想空間で、本人の意志や思いとは関係なくメリット/デメリットを言語化できる(しやすくなる)のもディベートの長所です。

(2)他者理解の促進

肯定派/否定派それぞれの立場に立つ(および議論を通じ理解する)ことで、異なる立場を疑似体験できる。すなわち他者理解が進む。

(3)論理的思考能力の育成と実践

ロジカルシンキングクリティカルシンキングの育成および実践の場として機能する。

(4)問題と感情を切り離した議論の習慣化

問題と感情、事象と人を切り離して議論をする習慣を身につけることができる。

いずれもダイバーシティ&インクルージョンの定着、および共創力デザイン思考、強化においても効力を発揮します。
マーケティング活動(他者理解やデザイン思考を必要とする)のプロセスとして、ディベートを実施してみるのも良いのではないでしょうか。

5.所感

今回のディベートプログラムを実施し、同社(クライアント)の部長陣から次のような前向きなコメントをいただきました。

「ディベートを人材育成の一環で本格的に導入していきたい」
「育成のみならず、組織の意思決定プロセスに取り込んでいきたい」
「プロジェクトのキックオフでディベートを実施し、テーマに対する見識を深めるとともに、プロジェクトを進める上で予測される困難やリスクを洗い出すのも良いのではないか」

ディベートプログラムの企画者(部長陣)の振り返りコメント

個人的には、

(1)ロジカルシンキングやクリティカルシンキングのトレーニングと併せて実施すると、能力開発(能力のインプット)と実践(身につけた能力のアウトプット)の両輪を回すことができる
(2)設定するテーマ次第では実業務に直結した議論をすることができ、組織の課題解決のプロセス、組織開発として機能させられる
(単なる頭の体操に終わらない)

この2つを強く思いました。

ディベートを育成のみならず組織の意思決定プロセスとして取り入れる組織が増えて欲しいです。

僕たち(当社)も仕事として、ディベートプログラムの設計、講演、ファシリテータ、プロセスへのインストールなど喜んで伴走しますのでお声がけください。

ディベート as a 組織開発