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第167回芥川賞候補作を全部読んだので感想と受賞予想*

こんばんは。えびです。
第167回芥川賞、もうすぐですね~~~楽しみーーーー!
前回は、砂川文二さん『ブラックボックス』だけ受賞発表前に入手できなくて未読、それ以外の4作品は読んだのですが見事に砂川さんが受賞されましたね。
今回は5作品とも掲載雑誌を持っているので、すべて読みました。
今回、『新潮』『すばる』からは候補がなく、比較的よく買う『群像』、ほぼ毎回買う『文學界』『文藝』からのノミネートだったのも大きいです。
ただ、今回はすべて受賞発表前に単行本化されましたね!激アツ~

というわけで、5作品とても楽しく読みましたので、簡単に感想(&ご紹介)と受賞予想をしますね。長いけど、目次付けるので許してください。

①年森瑛『N/A』


文學界5月号に掲載。今年の文学界新人賞を満場一致で受賞された作品で、発表当初から話題になっていました。私も発表直後に一度通読し、今回の予想のため再読しました。

主人公は高校生のまどか。まどかは生理が嫌で止めるために食事制限をします。40キロを切るくらいのスレンダー体型で、中世的な外見と相まって学校では「王子」と呼ばれ慕われています。
まどかが拒食なのはただ単に「血が流れるのが嫌」なだけなのだけど、やせ細る彼女に母親は勝手に責任を感じて悩み、養護教諭は優しくてどこか浮いたことばで諭してくる。
…この小説にはたくさんの「勝手に気を遣い、勝手に解釈し、勝手に空気を読み、どこかよそよそしいニセモノみたいな表現」がたくさんでてくると感じました。それはまどかの友人の言葉からも、まどかの家族のシーンからも。
また、まどかは”うみちゃん”という女性と付き合っています。でもまどかはレズビアンというわけではなく、ただただ「がまくんとかえるくん」のような、”かけがえのない他人”が欲しくて、たまたま告白されたから付き合ってみているだけ。でもうみちゃんの解釈は違って、またその一歩外側にいる人からの表現もどこか浮いていて…

全体的にまどかの空虚な感情というか、型にはめられる狭苦しさなどを感じながら読んだけれども、最後の展開でいっぱい喰わされ、逆にふっと力の抜けるような、鎧が崩れるような、安心すら感じるような読了感でした。
作者は受賞インタビューで、かつて大人たちに否定された「ケータイ小説」について言及されていました。わたしはケータイ小説どんぴしゃな時期に女子高生だったのでケータイ小説文化は大好きなのですが、この作品は「ケータイ小説」を彷彿とさせる軽快な語り口調、読みやすい文体、キャッチーな内容に溢れていてとても楽しく読めてしまって、だからこそ最初は「あー面白かった」という読了感しか抱けず心に突き刺さる読み方はできていなくて、でも周囲の評価がものすごく高く、文学的にどのような意味があるのかなど、再読時には意識したつもりでしたがまだまだ表面しかなぞれていない気がします。もし本作が受賞したらその辺りもきちんと分析しながら読もうと思いました。

②鈴木涼美『ギフテッド』

文學界6月号に掲載。著者の鈴木涼美さんをわたしはご経歴含めて存じ上げず、初めて作品を拝読しました。(著者初の中編小説だそうです。)
歓楽街とコリアンタウンの中間に住む主人公「私」と、その母親の物語。母は病に侵されていて、かつての綺麗だった頃に比べ、弱弱しくて消え入りそう。美人だった頃の母は人前で歌ったり、詩を書いて人前で朗読などをしていて、「私」はそんな母親にいきなり体を焼かれた過去がある。いまにも命が消えそうな母からは想像ができないくらいの壮絶な一瞬の過去の出来事、予兆があったわけでもなく急にタバコを押し付けられ、その後服に火を付けられた。水商売で働く「私」は火傷の跡を隠すために入れ墨をしている。

この作品は、上述のストーリーの他にも、主人公の自殺した友人、その友人が通っていたホスト、昔の母親のファンで大金をくれる男性など、強めの要素がたくさん出てきます。なのに、今回の5作品の中でも群を抜いてたんたんとした文章で、一文一文が独立しているような、温度を持たないような、無機質な印象を受けました。だからこそ物語に入り込むのが難しかったのですが、入り込ませるように出来ていないのかも。母親と主人公との関係性や会話などの様子、また度々挿入される「ドア」の描写など、自分の中ではかみ砕けていません。(信頼している読書家の方が、母が体を急に焼いたのは、女性らしさを帯びてきた娘に女性らしさを売ることをやめさせるためなのでは、のような考察をされているのを拝見し、凄いなと思いました。わたしは考察や分析を日ごろあまりしないので、感情的な印象しか語れない、、、)
本作は全体的に淡々としているのですが、最後の2ページくらいは特によかったなー…。すーっと消えるような余韻で、読み終わったあと思わず本を閉じてため息をつくほどでした。


③小砂川チト『家庭用安心坑夫』


こちらは群像6月号に掲載。これは、実は芥川賞候補になるまではチェックしておらず、なぜなら群像を買ったのは同誌に掲載されている島口大樹さんの新作が目当てだったからです(目当てを読んで満足して積んでいた)。島口さんは前回の芥川賞候補になっていた方で、脳内を見せつけられているような流れるような文体が特徴の方なのですが、新作が凄く良いバランスで面白すぎて大好きでした。これが芥川賞候補にならなくて絶句しましたよ。。。
と、島口さんの話は置いておいて。
なので、候補作発表されてから群像を引っ張り出して読みました。結果、めちゃくちゃ良かった。わたしこの作品、大好きです。
主人公の小波(さなみ)は東京に住む専業主婦。彼女は秋田出身で、母親からずっと「小波の父は、廃鉱山跡地のテーマパークにある炭鉱夫のマネキン人形・ツトムである」と聞かされていた。(作中に出てくる尾去沢は実際にあるところで、マネキン人形含め、写真を見ることができるのでググりながら読むとより没入できるかもです。)
ある日、小波は町中のいたるところで父なるツトムの姿を見かける。こんなところにいるはずないのに・・・。最初は拒絶する気持ちを持つも、次第に自分に会いに来た意味があるのでは?と考え、小波は父親(マネキン)に会いに行くべく単身秋田に帰る。昔の実家にもより、そこで見たものは、、、、。
本作の感想や紹介文を読むと「狂気」「恐い」といったものが目につきますが、わたしはそうは思わなかったんですよねー。小波の一人称に近い三人称小説(古川日出男さんは、絶対一人称にすべきだったと書評されている)で、でもわたしは小波の中に入り込むのは十分で、もちろん「信頼できない語り手」感からくる不安感はあるのだけど、小波の目線で見ているのでわたしには小波の行動や感情が一貫性のあるものに感じられ、納得してしまった。そう、変な事はたくさん起こるし割ととんでもないのだけど、納得感があったのです。こういう、狂気と言われるものを内側から見ることのできる話が大好きで(最近では遠野遥さん『教育』がめちゃくちゃ面白かった)、そういった要素とふわふわした文体も合わさり、非常に楽しく読了しました。とはいえ決して難解な文章でもなく、読み始めたら一気読みでした。
こういう読了感の小説大好きです。
島田雅彦さんが書評で「タイトルのつけ方がいただけない」と仰っていましたがそれは同意。ちょっとわかりづらい、というか、タイトルの引力はもっとあっても良いのかなと。本作に引き合わせてくれた芥川賞に感謝です。


④山下紘加『あくてえ』

文劇夏号に掲載。特集は「怒り」。「感情だけは やつらに渡すな」のコピーが大好きすぎる。そしてわたしの感情は完全にこの作品に持っていかれてしまいました。
主人公は19歳のゆめ。ゆめちゃんの周りには要介護でわがままでがさつな「ばばあ」、義理の母に言い返せず弱弱しい母「きいちゃん」、不倫した挙句離婚して出ていき母の介護もしない父親…などゆめをイライラさせる人たちがたくさん出てきます。だからゆめちゃんは”あくてえ”ばかりついている。
正直わたしは「怒り」の感情にぶち当たるのが本当に苦手で、この小説はつらくてつらくて仕方なかったです。また個人的に「介護」とか「老人」といった主題もあまり得意ではなくできれば小説という娯楽の世界ではあまり触れたくない部類で(本当にごめんなさい、でも好みの問題なのです。現実世界のことではないです。同様に生まれたばかりの子供を題材としたフィクションもあまり得意ではないです。)、わたしの苦手な要素がつまっていて、それが全力で絶え間なく殴り掛かってくる小説でした。これ本当にしんどいの。少し乗り越え…というか何とかやり過ごしてもどんどんどんどん次から次へ色々起こる。わたしもゆめちゃんと一緒に怒り狂いながら、つらすぎて思わず「いのちの母」ポチりました。感情に入り込みすぎて(感情をやつらに渡してしまった!)、冷静な分析が出来ませんでした。。。ただ、最後の最後、現実は終わりがない、現実は続いていく…というラストはとても良かったです。宇佐見りんさん『くるまの娘』を思い出しました(大好き!)。『N/A』とはまた違った意味ですが、本作が受賞したらちゃんともう1回向き合って分析してみようとは思います。今は打ちのめされすぎて気軽に再読できない・・・(でも単行本の表紙がめちゃくちゃ可愛いので必見です。)

⑤高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』


群像1月号に掲載。これはですねー丁度昨年の12月31日に帰省するときのお供として出発駅の本屋で群像を購入し、新幹線で読んだのです。高瀬さんって本作以外にも芥川賞候補になられている方で存じ上げていたし、駅弁食べながらだからなんかごはん系がいいかな~と軽い気持ちで読み始め、そしたら衝撃を受けた思い出の(?)作品です。
主な主人公は2人いるのだけど、メインの男性・二谷は、「食事」がとにかく面倒くさい人。きちんとした食事に意味を見出さず、生きるために食事をしなければいけない文化が嫌い。食をおろそかにすると責められる風潮にあるもの嫌い。そんな二谷が”かわいいから”付き合っている芦川さんはこれまた正反対で、かわいくて線が細くて料理やお菓子作りが得意な女性。芦川さんは二谷の家で「おいしいごはん」を作る。二谷はそれだと満たされず、彼女が寝た後一人カップラーメンをすする…
「食事」と「人間関係」のザワザワ感が酷くて、めちゃくちゃ面白くて3回読みました。二谷には共感するところが大きい。わたしも「食」をそれほど大事に捉えていなくて、おいしいものをきちんと食べたい日もあるけど、それが原動力にはならないし、ひたすら面倒くさいときは一切何も食べたくないです。だからうんうんと共感しながら読みつつ、最後の最後で結局男って…!という気持ちにもなりました。笑
芦川さん、わたしは大嫌いなのですが(すみません笑)、頭が痛いと仕事を早退し、職場の皆がなんとなく「芦川さんだから仕方ないよね」モードになり、翌日にお詫びと言ってホールケーキを作ってくるような女子は嫌いです。こういう人の描き方がとてもうまいなあと思うと同時に、ちょっとこの職場はやりすぎ(キャラが極端すぎ)なのでは?とも思った。パートの原田さんや中間管理職の藤さんが芦川さんを守る兵隊みたいだったけど、たぶん人間ってそこまで割り切れないのではというか、もうちょっとこの辺りのキャラに現実感があると良かったなとは思った。(わたしが芦川さん嫌いだからそう思うかもしれない。)
とはいえもうめちゃくちゃ面白くて、昔、ディズニーランドが苦手な有人が、「ディズニーランドが苦手なのは、苦手だとはっきりいうと印象が悪くなりがちだから嫌い」と言っていて、なんとなくそれを思い出すような作品でした。これは純粋に色んな人に勧めたい。現時点で単行本を持っている唯一の作品。


受賞予想みたいなもの


なんかもうめちゃくちゃ文章長くてここまで4600文字ですって。読んでくれている方いるのかしら。いたら、ありがとうございます。本当に。

「予想」なんて書きましたが、わたしに文学を分析する目はまだなく、だから的外れなものになるかもしれないのですが、単純に「推し」にします。

イチ推しは『家庭用安心坑夫』です!!!めちゃくちゃ大好き。こういう作品、もっともっと読みたいし色んな人の考察もたくさん読みたい。あーこういう読後感味わいたくて読書しているわー…という感想でもあった。

同時受賞あるなら『N/A』を推します。
うーん、世間的には波は『N/A』の波なんだろうな、とも思う。わたしも子の作品、好き。でも面白すぎて、逆に浅くしか読めていない自分が悔しかったり。

なので、『家庭用安心坑夫』『N/A』を予想します。
とはいえめちゃくちゃレベルの高い戦いだとは思っていて、どれが受賞してもおかしくないとは思う。話として大好きなのは『おいしいごはんが食べられますように』。これと『N/A』の同時は無いかなーとは思うのですが、どうかしら。

分析力も読解力も乏しい、ちょっと本が好きなわたしの予想ともいえない予想でした。20日楽しみですね!なんでわたし出勤日にしたんだろうーリアタイでドキドキしたかったw

ここまでお読みいただき、ありがとうございました🥰♡

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