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#散文詩

散文詩『陽が差して敬啓。』

 ボールペンの金属球は、酸化アルミニウムという素材で出来ているらしい。刺さるくらい見つめ、紙に着地させる火星の表土。
 金属球が紙に押し付けられる。この段階ではまだ乾いている。誰かの眼球のように。ペン先が水平に動く。転がる。
 細透明なプラカートリッジ、半透明に透けて見える――が、金属球の表面にインキを受け渡す。
 銀色に見えるが黒く濡れている。誰かの眼球のように。転がる。紙に線が現れる。カーチェ

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『誰も持っていないキーホルダーの作り方』

 まず油揚げを買ってきます。がんもどきでもいいです
 机の上に置きます。椅子の上でも構いません。
 後は認識するだけです。

「これはキーホルダーなんだ」と

 
 自由の女神?エッフェル塔?ちっぽけな作り物なんて要りません。実物そのものをキーホルダーにしましょう。なんならヨーロッパやアメリカ大陸をキーホルダーにする事だって可能です。
 この制作方法の素晴らしいところは、質量を持たない物もキーホル

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散文詩『蒼天貫唾』

 控えに言ってクソ野郎。気に食わないか?なら言い換えてやろう。うんこ野郎だ。いや、やっぱりクソ虫と言い換えよう。
 いずれにせよお前は、庭の石の下で太陽を呪いながら息を潜めている眼が小さくて脚ばかりたくさんある虫だ。
 無数の脚を持ちながら、どこにも行かず、ただただ太陽の熱を忌み、陽が沈むのを待ってゴミに顔を突っ込んで旨そうに貪り食う笑顔――虫唾が走るの語源はお前か?

 お前に生きる資格があるか

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散文詩『さらばジョンへ伝へかし』

 言葉の刃が触れる瞬間女の子は瞼で真剣白刃取りを試みた。
 けど死んじゃったよ。まつ毛が鋼じゃなかったから。

 僕ら電子言語をマスターしてる。で、それを石みたいに掴んで殴り合っている。まんまネアンデルタール。プロメテウスの飛び降り案件。

 和して目に映る色とりどりの花、愛しい人の笑顔、人生を変えた絶景、待ち受けに張り付いた画像がまだ残像のうちに、タップ、ピンチ、スライド、呪いの言葉で画面を満た

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散文詩『僕は永遠に右折できない』

散文詩『僕は永遠に右折できない』

 僕は永遠に右折できない。
 片側二車線、信号機は無い。手前の2車線、右から途切れることなく車がやってくる。多少途切れたとしても僅かな猶予しかない。左折は出来たとしても右折は不可能だ。向こう側の斜線もかなりの交通量。もうすでに3年は、中央分離帯の植え込みの隙間を睨んでいる。
 手前の車線と、向こうの斜線。僕の車が右折できるタイミングは、永遠に来ない。そう、永遠に――。
  
 永遠なんて存在しない

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散文詩『言葉を段ボールに入れる』

散文詩『言葉を段ボールに入れる』

 引っ越しの前に言葉を整理しようと思う。
 美しい言葉は右の段ボールに、汚い言葉は左の段ボールに、時間が無い、さくさく入れていこう。その前に段ボールに書いておこう。「美しい」「汚い」。こうしておいて「汚い」に入れた言葉は、ごみの日に棄てればいい。ん?言葉って可燃ごみだっけ?ま、いい後で調べよう。
 
 ”愛していた”を右の段ボールに、”笑顔”もそして”口づけ”も。
 ”悲しみを手に取って迷う。中原

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散文詩『合金とアルミ』

散文詩『合金とアルミ』

 透明な箱に緑の文字が張り付けられているそのすぐ横で、僕は千円札を店員に渡しコンビニの喧騒に耳を傾けていたのだが、ふと、透明な箱の中で小山を築いている惨めなジャックポットに視線を取られ、そこに一枚の異質な硬貨を認め息を飲み、鼠のような笑みを口端に浮かべ「誰だこんなところにスロットのメダルをいれたのは?」と辺りを見渡しこそはしなかったが、X氏の後姿を脳裏に描いて、このメダルが――その見たような見ない

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散文詩『wash me away』

散文詩『wash me away』

 河原に腰掛け、集めた小石、端の方から一つ取っては、スナップ効かせて川面に投げる。
 失った友。
 去った恋人。
 亡くした親のことなどを想い。
 秘蔵の平べったい石コレクションを、夕陽で味付けされた赤スープに向かって、ひたむきに投げ続けていると僕は――

 石一つ投げるたびに僕は――自分の体積が少し失われていくかのような感覚になって――つまり僕は、石一個投げると、石一個分の僕が、川面を跳ねて跳ね

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(株)猫

(株)猫

「すべての猫は個人事業主である」

 社員を雇わず、一人すべてを担い会社を経営している。
 猫の経営姿勢から学ぶべきことは多い。一挙手一投足に無駄が無く、すべての行動が理に適っている。
 以前、猫の損益計算書を見た某大手商社の社長が、その利益構造の余りの素晴らしさに、腰を抜かし、以来猫背になってしまったというのは有名な話だ。

 誰です?「縁側でボンヤリして、あれはサボっているんじゃないか?」です

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眠れない夜に梶井基次郎を読んだ挙げ句に散文詩 5編

 花火の音ばかり空に響いてる。うろうろと見上げるがやはり明るい宵闇が貼り付いているだけ。
 親子が歩いている。母親と男の子2人、子供はどんと空が鳴るたび、駆けようとするが母が制する。この先に行けば、音の源が光って見えるのだろう。
 鑑賞は彼等に任せ、僕はいつもの飯で眠るだけ。

**********

 コンビニ、冷蔵庫、扉を片手で制しつつお茶を一本抜き取る。後ろに控えていた1本が音も微かに滑り降

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『明日僕はザクに乗る』

『明日僕はザクに乗る』

「怒りは情熱に悲しみは優しさに変えろ」
 父が遺した言葉だ。母を亡くし男手で僕と妹を育てた父。働き詰め、体を心を壊し、作業中の事故で命を失った。アースノイドだった父は差別され続け、それは僕らにも及んだ。
 明日僕はザクに乗る。
  怒りを情熱に、悲しみを悲しみのまま抱いて。

 探るように掌を押し当てる。深緑の装甲冷たい。宇宙の温度が染み着いている。俺と同じだ。なぁお前、家族はいるか?俺はいる。

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散文詩『モラトリアム定食』

 時が止まった。
 窓から差し込む光、舞う埃の粒子をプリズムに、お盆の上に色彩を付与する。

 サバの塩焼き、その焼け爛れた鱗の連なり、滲んだ脂が、背骨の辺りから差し上る太陽の微光を受け、冥王星にて未だ命名されぬ丘陵の佇まいで皿の上に転がる。

 箸の先に十穀米が乗っている。その一粒一粒、小規模なビッグバンを準備している生命の核のよう――
「こんな莫大なエネルギーを口中に受け入れて、僕は無事でいら

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散文詩『筆影山』

 暗いアスファルトに目を凝らす。心が水筒の闇に同化してゆく、もはや2cm、遠足の目的地まで足りるはずもない麦茶。帰り路もあるのだ。笑いながら薄ら返事。異変に気付いた友が顔を覗き込む。
「お茶もう無いの?」
 水色の水筒を掴みシェイクするとちゃぷと弱弱しい音が一度したきり。
「まだ着いてもなぁのに、お茶がこんだけしかないど」
「飲みすぎじゃ」
 皆が笑った。僕にはそれが嘲笑に聞こえ――
「朝飯に塩昆

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散文詩『九十九足』

 百足は思った。
「脚が痛い」
 でもどの脚か分からない。
 右か左かも分からない。
 前か後ろかも分からない。
 ただただ鈍やかな痛みがしんしんと続いていて、百足を苦しめる。
 百足は思った。
「分からないからなんだと言うんだ?」
 分かったところで、どうしようもないのだ。
 ああ、痛いのはここだと分かったところで、いったい何になる?そう決め込んで、ぞろぞろと歩き出したのだが、やはり痛い。
「俺

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