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散文詩『wash me away』

 河原に腰掛け、集めた小石、端の方から一つ取っては、スナップ効かせて川面に投げる。
 失った友。
 去った恋人。
 亡くした親のことなどを想い。
 秘蔵の平べったい石コレクションを、夕陽で味付けされた赤スープに向かって、ひたむきに投げ続けていると僕は――

 石一つ投げるたびに僕は――自分の体積が少し失われていくかのような感覚になって――つまり僕は、石一個投げると、石一個分の僕が、川面を跳ねて跳ねて最後小さく跳ねて挙句に僅かな波紋の中心点に沈んでいくという――幻燈をクラムボンしているわけで。

 失われていく感覚――いやこの感触を僕は、とても愛おしく想い。黄昏に涼む雑草達の緑の呼気を深く臓腑にため込むと、はたと立ち、最後の小石を全力で投げようとした勢いで、うっかり自分自身を川面に投げ入れてしまいました。

*****

 僕はプカプカと浮かび、たゆとう流され、消費カロリー0の背泳ぎ状態。岸でヌートリアが威嚇している。
 どうせならいっそ、この河川敷に吹く気持ちの良い――ほら今も僕の頭上に吹いた風みたいになりたいな、なんて思いながら、「明日は風邪か?」なんて適当なところまで流されていきました。まるで自然分娩されたかのように。

 ここで一句。

笹船や
去り行く速さを
競う悲しみ

 ふー。

 流れに洗われて、汚れが溶けていく。このままではきっと、僕はすべてなくなるな。人は皆いずれ、海に行き着くものなわけで――まだ早いか?立ち上がりると膝までの水位。自転車まで遠いな。

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