アルファ

2018年8月より六カ月連続で「写真」をテーマにした短編をアップしていきます。宜しくお…

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2018年8月より六カ月連続で「写真」をテーマにした短編をアップしていきます。宜しくお願いします。

最近の記事

平成旅情列車② 能登半島一日縦断

能登半島一日縦断      行先変更  能登半島は広い。広いと言うよりは長いと言った方が正確だろうか。  2000年の八月の下旬のことだった。帰省ラッシュの時期を外して休暇を取った私は、二泊三日で南九州に行こうと計画を立て、九州に行く寝台特急の指定券を買った。宮崎県の高千穂鉄道に乗って高千穂に泊まり、翌日はバスで阿蘇の方に抜け、熊本県から福岡県を旅して、帰りは新幹線で帰って来ようと考えた。帰りを飛行機にしなかったのは、行きあたりばったりで動きたいからだ。  しかし、予定と

    • 平成旅情列車① 駅回想~岩泉~

           山奥を走るローカル線  岩泉線という朝夕にしか列車が走らない超過疎ローカル線が平成の時代にあった。もっといえば21世紀になっても存在していた。場所は岩手県だ。  その岩泉線には一度だけ乗ったことがある。週末を一泊二日で旅ができるフリー切符がかつてJR東日本に存在していて、その切符を使って三陸を旅した時の話だ。  この時の旅は、山形新幹線で山形に行き、山形~仙台~盛岡と乗り継いで盛岡から山田線に乗った。山田線は北上山地を横切って三陸沿岸に出るローカル線で、こちらも岩

      • 2023年 行ってみたい国

         まだ今年は旅に行けていない。理由は個人的な問題なので置いておくが、とりあえず昨年11月に北海道に出かけて以来、旅をしない日々が続いている。そんな今日この頃だが、実は予定はあった。  五月下旬に韓国に行こうかと計画していた。行先は釜山だ。或いは日にちを少し足して釜山からKTX(高速鉄道)に乗ってソウルまで出てみようかとも計画していた。  ソウルではなく釜山を主たる行先に選んだ理由は、史跡巡りをしたいという点と、海が見える坂のある町が好きだからという点、そして、ローカル線である

        • 短期投稿 スタジアムエッセイ第一回「ボールパークへ連れてって」

          ボールパークへ連れてって    国民的ソング  ラッキーセブンの攻撃を迎えるにあたって、客席は少しだけ腰を浮かせかけている。定番となっている球団歌が流れる場面である。球団によっては歌が終わるとともにジェット風船を空に放つことを恒例にしている。子供などは、それが試合よりも楽しみであると言いたげな顔で風船を手にしていたりする。日本のプロ野球ではおなじみとなった光景である。だが、ある日の東京ドームの試合は違っていた。  かつて、東京ドームをホームとする球団は二つ存在した。一つは

        平成旅情列車② 能登半島一日縦断

          2022 ベトナム・タイの旅⑩ ~福岡から成田~

          帰国からの困惑 ~2022年8月10日 福岡から成田~    福岡空港  スワンナプーム空港を定刻より20分遅れて1時05分に出発したタイ・ベトジェットエアVZ810便は、25分遅れの8時35分に福岡空港に到着した。タイと日本には二時間の時差があるので五時間半のフライトだったが、一時間くらいしか寝ることはできなかった。座席夜行列車に何度も乗っている私だから座って一夜を過ごすのは多少慣れているが、LCC(格安航空会社)の座席の狭さに落ち着いて過ごせなかったのは事実である。

          2022 ベトナム・タイの旅⑩ ~福岡から成田~

          2022 ベトナム・タイの旅⑨ ~バンコク市街から空港~

          再会する夕陽 ~2022年8月9日 バンコク市街から空港~    BTSゴールドライン  アラームをセットしないで寝てみた。旅の序盤は五時半に目覚める日が続いたが、もう身体は東南アジアの時間に慣れたようで時差というものは忘却の彼方にある。時計の針は8時前だった。  朝の下町を歩いてみようと外に出たが雨季特有の空模様といったところだろうか、雨こそなかったが今日は曇っていた。前回と同様にセブンイレブンで朝食を買う。前回この店で買ったチョコドーナツとクリームどら焼きに、昨日も食

          2022 ベトナム・タイの旅⑨ ~バンコク市街から空港~

          2022 ベトナム・タイの旅⑧ ~バンコク中心部から郊外~

          迷宮から黄昏 ~2022年8月8日 バンコク中心部から郊外~    プロンポン  朝になると雨が降っていた。昨夜は何度か目が覚め、一回トイレに出かけた。ドアの開閉音に気づいてか、いつの間にか猫がトイレの入口に現われた。庭のどこかに潜んでいたらしい。猫とは寝る前に遊んで仲良くなっていたから、また遊びたかったのかもしれない。部屋までついてきたので猫としばし戯れる。  私はすっかり気に入られたようだ。猫はベッドに上がるとそこに踏ん張り続けた。私は一緒に寝ても構わないが、宿として

          2022 ベトナム・タイの旅⑧ ~バンコク中心部から郊外~

          2022 ベトナム・タイの旅⑦ ~バンコクとナコーンパトム~

          鉄路との遭遇 ~2022年8月7日 バンコクとナコーンパトム~    ナコーンパトム  昨夜から鼻水が止まらなくなっている。もしや感染症にかかったのかと、深夜起き抜けの頭でネット検索をした。水っぽい場合はアレルギー性である可能性が高いそうだ。一安心する。この部屋にはアメニティが足りていないので、ずっとトイレットペーパーで鼻を噛んでいる。  どうしてそうなったのかは原因は見当がつかないまま朝を迎え、アメニティが足りていない部屋には歯ブラシがなかったので、ホテルの近くの交差点

          2022 ベトナム・タイの旅⑦ ~バンコクとナコーンパトム~

          2022 ベトナム・タイの旅⑥ ~バンコク~

          懐古への入口 ~2022年8月6日 バンコク~    セントラルプラザ  未明、まだ夜が明けない時間。具体的には午前3時から日の出までの間を指すのだという。そんな時間に私は目が覚めた。今夜こそはぐっすりと眠れるという確信があった。移動の疲れ、前夜の寝不足、ホテルがきれいであること。  実際、よく眠れた。だが、未明に目が覚めた。便意というやつである。お腹を壊している訳ではないようだったが、昨日口に入れてしまった辛子の刺激的な辛さと、夜に食べたガパオライスの辛さが重なって軽い

          2022 ベトナム・タイの旅⑥ ~バンコク~

          2022 ベトナム・タイの旅⑤ ~ダナンからバンコク~

          潮風と豪雨 ~2022年8月5日 ダナンからバンコク~    ミーケービーチ  リモコンに反応しないエアコンは諦め、私は部屋の窓を開けた。サッシは埃がこびりついているが、開けてみれば少し涼しい風が入ってきて爽やかな気分である。窓外は空き地で、周囲の建物とは少し距離がある上に窓が向き合っている訳でもないので、私はシャワーを浴びたあとはベッド上の扇風機を動かし、窓からも風を浴びて下着姿で涼むことにした。  シャワーの水圧はここまでの宿で一番強く、それは日本と変わらないほどだっ

          2022 ベトナム・タイの旅⑤ ~ダナンからバンコク~

          2022 ベトナム・タイの旅④ ~ハノイからダナン~

          延伸への期待 ~2022年8月4日 ハノイからダナン~    ハノイメトロ  きれいな部屋のホテルだった。これでぐっすりと眠れると思っていたのだが、そうはいかなかった。私の部屋はエレベーターの横にあり、廊下の突き当たりに近い場所にあったが、隣の突き当たりにある部屋が午前0時頃から騒がしくなった。ドアが何度か開き、エレベーターの方から人の声が響き、部屋の方からは物音がしてくる。そんな状態が午前2時くらいまで続いた。今日は木曜日で平日だが、夜半になると人の動きが活発になってい

          2022 ベトナム・タイの旅④ ~ハノイからダナン~

          2022 ベトナム・タイの旅③ ~ハノイ二日目~

          熱風と熱気 ~2022年8月3日 ハノイ二日目~    ロンビエン駅  ベトナムにやってきて二日目の朝がやってきた。今日は特に予定を組んでいないのでアラームはかけずに寝たのだが、きっちり朝五時半に目が覚めた。昨日、一昨日は飛行機に乗る時間を考慮して朝五時半にアラームをかけて起きていた。それが癖になってしまったのか。ただ、日本とベトナムの間には二時間の時差がある。日本は今、朝の七時半だった。  今日どこに行くかなどをぼんやりと考えたり、身支度などをして、7時過ぎに散歩に出た

          2022 ベトナム・タイの旅③ ~ハノイ二日目~

          2022 ベトナム・タイの旅② ~福岡からハノイ~

          混沌とした迷路 ~2022年8月2日 福岡からハノイ~    ベトジェットエア  福岡は今日も好天である。宿から地下鉄が走る大通りまでの道はビルが林立して日陰ができていたが、空から降り注ぐ日差しは早朝から相当強い。  宿の位置は地下鉄の博多駅と祇園駅の間くらいにあるが、入口は祇園駅の方が近いのでそちらを目指した。時刻は朝の6時を少し回ったところだが、やってきた入口はシャッターが閉まっていた。注意書きを見ると開くのは7時からのようだ。この辺りはオフィス街なようだから仕方がな

          2022 ベトナム・タイの旅② ~福岡からハノイ~

          2022 ベトナム・タイの旅① ~成田から福岡~

          変化する風景 ~2022年8月1日 成田から福岡~    香椎線  行きたい場所に行けないという状況。旅が好きな者はその状況に悶え続けてきた二年半だったに違いない。特に海外旅行に出かけることを楽しみとしてきた者にとって、外国に行けない日々は「想像のできなかった未来」であったことだろう。  三年ほど前、私は東南アジアを舞台にした物語を書いてみた。それをきっかけとして東南アジアについて調べていくうちに、現地に行ってみたいという思いが強くなっていったのだ。  東南アジアと言って

          2022 ベトナム・タイの旅① ~成田から福岡~

          車窓を求めて旅をする⑯ あとがきを書くために旅をする ~吾妻線・御殿場線~

          あとがきを書くために旅をする ~吾妻線・御殿場線~      吾妻線  ここまで十五回にわたって書いてきた鉄道紀行も今回が最終回である。平成二十五年(2013)秋に青森県と岩手県に跨って走る八戸線に乗ったことで、JR線の全路線に乗り終わった話から始まったこの鉄道紀行は、残る私鉄路線を訪ね歩き、私が日本の鉄道全路線に乗り終わるまでを綴る予定で企画を始めた。  ここまでお読みいただいた方はご存知のとおり、その目標はまだ達成されていない。これを書いている現時点で未乗私鉄線区は1

          車窓を求めて旅をする⑯ あとがきを書くために旅をする ~吾妻線・御殿場線~

          車窓を求めて旅をする⑮ 再び走る風景 ~阿佐海岸鉄道・土佐くろしお鉄道~

          再び走る風景 ~阿佐海岸鉄道・土佐くろしお鉄道~      阿佐海岸鉄道  冬を感じる朝だった。特急の窓の向こうの農村は農作物の刈られた畑が広がっていた。岡山に着き、寝台特急サンライズ瀬戸を降り、瀬戸大橋線の快速マリンライナーに乗り継いで、グリーン車の座席から鉄橋越しに海から昇る朝陽を見て、今日が温暖な日になることをようやく確信した。  サンライズ瀬戸は高松行きだが、私と同行者のTさんは岡山で快速に、四国に入って最初の停車駅坂出(さかいで)で予讃(よさん)線の普通列車に乗

          車窓を求めて旅をする⑮ 再び走る風景 ~阿佐海岸鉄道・土佐くろしお鉄道~