見出し画像

OJTとOFF-JTの質を向上させるためにー看護師の研修・教育の工夫


働き方改革の影響により業務時間の中で研修会、勉強会を実施することが難しい時代となりました。
「業務時間外にやるなら残業代は申請できるのか?」
「業務時間内にやるなら結局業務終わらないよ。」
わかってるよ・・・管理者からするとついついため息が漏れてしまいます。


そこで今回は、ICUという忙しく不規則なスケジュールの中で、
面白い『教育』の工夫をされている看護師の辻本さんにインタビューをしてみました!個人でも組織でも活用できる内容ですのでお楽しみに。

スクリーンショット 2021-04-29 15.00.54


◾️実践的な教育が難しい状況の中、どのように対処していますか?

 OJTを充実させるためには「振り返り」を効果的に送ることができます。
例えば人工呼吸器を使用している患者さんを受け持ったとき、なんとなくケアしてみて後から振り返ったことを研修チェックリストなどに記入していただき、上司の提出するだけというのが一般的だと思います。
ですが、机上の学習だけでは実践に活かしきれないのが現状です。

なので実際に経験した際に、何を考えてそのケアに至ったのか、うまくいったこと、いかなかったことは何かを聞き、そこから何を学んだのか、次に生かすとしたら何をするのかという、いわゆるリフレクションというサイクルを回すことを意識し、現場教育を行うことが大切です。

 ある能力を一生の中で身につけるためには、現場の経験から学ぶことが70%、参考書など外部環境から学ぶことが20%、後の10%がOFF JTと言われています。OFF JTに費やす時間の割合からみると10%が少ないわけではありませんが、70%を現場から学ぶのであればその70%をいかに効率的かつ効果的に学びえるのかが重要なのだと思います。

さらに、重要な要素として当事者意識、つまり興味をもつことが大切です。例えば、コロナ感染者の対応をしている医療スタッフは、感染のリスクが自分に降りかかってくる事なので、今まで以上に感染対策を徹底しています。

しかし今までは「感染対策ちゃんとしてくださいね」と声をかけたとしても感染は目に見えないもののため、スタッフの意識も低くしっかり対策ができていなかったところは多いのではないでしょうか。
自分に感染のリスクが及ぶとなれば、みんな真剣になります。
ここで言えることは「自分ごと」になることが重要なのだということです。


◾️当事者意識を作るために大切なことは何ですか?

 教育をする立場ではスタッフが「当事者意識」を持つようなとき、自分ごとになっているときはどのような時なのかということを見逃さないようにすることがOJTにおいても大切です。そのため良くか悪くか、コロナウィルスによるパンデミックは感染対策を学ぶ機会ととらえることができます。

またコロナの影響でICUに来る患者さんが増加していますが、今まで看護師2人で1人の患者さんを見ていたのが1対1になることがあります。満床にも対応できる人数が出勤している体制にしていますので、5床コロナ感染患者用だとしても2床埋まっている状態では、数名の看護師に少しの余裕ができるということです。

そのようなタイミングを見つけて、20分でも活用できる時間にするために、研修が必要と考えられるスタッフに行っていました。

「少し余裕の出る時間」が生じやすくなることもあるので、そうした機会を有効に活用していくことが大切なのではないでしょうか。

余った少しの時間を何もしないでいるとサボり癖がつきますが、少しの時間を有効に使い、そうした時間で行えること(研修)を日ごろから意識しておかないと、いざ時間ができたとしても「さあ何しよう?」となってしまい、今まで通り参考書を読むだけで頭に入らないなど非効率的な勉強法になってしまいますからね。


◾️どのように研修方法を工夫されていますか?

 僕が現場にいる時に大切にしているコンセプトは、「学習環境を整える」ことです。いろいろあるのですが今回は、現場で必要な知識や観察項目を書いた"とらの巻"の整備と、ホワイトボードを用いた思考や経験の可視化についてご紹介します。

 一つ目は、「とらの巻」の紹介です。
OJTは指導者によって研修内容や質が変動することが少なくないため、最低限押さえておいてほしい内容を「とらの巻」として作成し、すぐに活用できるようナースステーションに配置しました。

例えば、補助循環装置やECMO(体外式膜型人工肺)などを使用することが増えていますが、人により抑えているポイントが異なるため、基準となるものはあんちょこのようなチェックリストを作成しました。

教科書に載っていること以外に、現場の経験から各個人が学んでいる呼吸管理の方法や評価のコツなどを1つの小技としてみんなに共有すること、そして現場で手に取って知ることができればすぐに使える知識になりますし、短時間で引き出しを増やすことができます。

スクリーンショット 2021-05-05 18.46.50

次に「ホワイトボード」の活用法をご紹介します。
看護実践を記録に残す内容は、結果を端的に表現することが基本ですが、スタッフはその過程では色々なことを考えていますよね。
その思考を引き出し、可視化するために
①やったこと
②観察したこと
③考えたこと
④今後予測できること

など、ホワイトボードにフォーマットを作っておき、対話と振り返りの中で書きだしていきます。そうすると他の人がどのような考えでそのケアをしたのか、の「なぜ」が可視化できるようになります。


◾️スタッフの認識に対して、どのようにアプローチしていますか?

 ホワイトボードにフォーマットだけがあっても、「何を話し合っていいのかわからない」と、テーマについて悩むことがあります。
その解消法として、まず現場のスタッフが困っていることや、わからないことなどを事前に聞いておき、日々の現場リーダーに「こんな内容の研修をしようと思うけどどう?」と伝えておきます。

現場の人が興味関心のある内容にすると当事者意識を持ちやすくなります。

例えば、受け持ちのコロナ感染者の呼吸が苦しそうです、ではどのように改善したらいいのか経験がなければわからないですよね。そういった日頃の「?」をテーマに、みなさんはどのように対応しますか?と問いかけて、他の方々ならどう考え、どう行動するのか、について共有しています。

そうすると患者や状況が変わったとしても、学んだことを想起し、活用することにつながります。テーマの決め方については、「困りごと」のほかに、知っておいてほしいことや気づいてほしいことは事前に準備しておいて、状況に合わせて問題提起をするように心がけています。

また、意見を抽出する工夫として、WEBアンケートを活用して、知りたいことや困っていることなどありますか?といったことを聞いています。
理由としては、筆跡でバレたりしないので、気軽に意見を抽出できるように工夫しています。そして、僕の感覚とみんなの感覚にずれが生じていないか、確認するようにしています。

◾️研修において大切にしていることを教えてください。

 研修をするときには、ARCS(アークス)モデルを意識しています。
これは、A,R,C,Sと頭文字を並べた言葉です。


①注意(Attention)
興味関心を惹きつけ、「何か面白そうだな」と思わせること。
②関連性(Relevance)
自分がやっていることと教えてくれることが関連し「やりがいがありそうだ」と思わせること。
③自信(Confidence)
自分の努力によって成功した、「やればできそうだ」と思わせること。
④満足度(Satisfaction)
学んだことに対して褒めるなど「やってよかったなあ」と思ってもらえること。

この観点を大事にしながらOJTもOFF JTも取り組んでいます。ただ100点満点実行することは難しいので、うまくいかなかった時は「振り返り」をして、自分自身も振り返る。また振り返るときに、どのように振り返るのかといった枠組みがあったら良いですよね。

内的動機付け、外的動機付けどっちが原因だったのかな、どっちも悪かったのかな、などARCSモデルを活用した視点で見てみるなど『実践してみては修正して』を繰り返しています。

 また研修において大事なことは、メンバーの中でルールを決めておくことです。患者さん優先でいいよ、途中で抜けるのもいいよと最初に伝えておくこと、研修では積極的に発言してほしいけど、否定的なことは言わない、発言している人の話はしっかり聞く、発言してくれた人には必ず拍手などのリアクションをしましょう、などを決めています。

 学びの場というのは、安全な場づくりが大事です。
発言を求める時も、いきなり当てるのではなく、付箋を使用し、シンクペアシェアといい、まず1人で考えて付箋に書いてみる、それを隣の人とシェアしてもらいます。時間があれば2組くらい代表して、グループとして発表してもらうようにすると、それだけでもその人の意見とわからないようにすることができるので発言の敷居を下げることができます。

考えたことをアウトプットする場としても、3分やるだけで自分の考えを人に伝えて、相手の考えも聞き入れて、他のグループの意見も取り入れることができる。そうした短い時間の有効活用ができるとどこでも有意義な研修を取り入れられるのではないかと思います。

スクリーンショット 2021-04-30 21.32.34


       ■ ■ ■ 僕が目指す組織 ■ ■ ■

 お互いが認め合いつつ、居場所があって、いろんな働き方が尊重されて、かつ組織に役立つことをしたら能力給のようにインセンティブがつくなどそういった仕組みが作れたら理想ですし、それを目指していきたいと思います。

 理想の組織を端的に表す指標として、たった一つの質問があります。

それは、「あなたの一番大切な人をここに入院させたいと思いますか?」です。その回答が、スタッフ全員が「はい」だったら、きっとスタッフにも患者さんにも素敵な医療やケアを提供していると思いませんか。

そして、なぜそう思うのかをきちんとスタッフの話を聞いて、それを所属の目標や理念にすると思います。その一方で、「いいえ」があったとしても、その意見に真摯に向き合って、改善していく方法をスタッフで協力して改善していけるよう働きかけると思います。

組織は、目的を達成するために集まった2人以上のあつまりなので、目的をきちんと患者や家族のためであることを基軸にして、お互いを「人」として認め合い、尊重することが重要だと思います。



辻本さん、「とらの巻」「ホワイトボードの活用」などリアルな現場を想像しながらどのように自分の組織で取り入れられるか考えることができました。ありがとうございました!
ぜひ研修に悩んでおられる方は、ご参考にしてみてくださいね。

こちらの記事もご覧ください^ ^


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?