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エウレカ!:私と長瀬有花の汽元象

正直に言えば、Eurekaへ行くことを決めたのは東京にいる友達に会いに行くきっかけ作りに過ぎなかった。
長瀬有花は私の日常を彩る大切な人であったけれど、ライブへ行くことになったのは半ば偶然。
友人に来なよと言われて、じゃあせっかくならついでにと、申し込んだ。

期待していたものは、たゆたうように時間がゆっくりと流れる空間であり、「良かったな…」と幸福を嚙みしめながら帰途につく私の姿だった。


Eurekaではイベントタイトルの通り、時間や次元の認識は消滅し、何かを噛みしめる間もなく情報と感情の奔流に翻弄され、衝撃と驚きに支配された。


一週間をかけてようやく目の当たりにしたものを整理出来たので、ここに記そうと思う。
ただし、内容はかなり自己中心的な解釈になっているためその点はご容赦いただきたい。


理想ではなく実在することによる威力

理想は妄想でしかなく、それを現実に足をつけさせようといろいろな努力をこれまでしてきた。
長瀬有花は私の好きのかなり深部に食い込んでいて大きな影響力を持っていたけど、私は彼女を画面越しに捉えることしか出来なかった。
それはまるで偉人の業績を本で読んだり、フィクションを見たりするのに近く、あくまで現実とは切り離された思想のように考えていた。

しかし、彼女が顕現した瞬間にその認識は壊されてしまった。
彼女は私と同じ人間で、自信を構成する過去を持ち、旅先ですれ違ったり、出会ったりする可能性がある存在なんだと気づかされてしまった。
理想が現実に反するものではなく理想のままに存在していた。
その衝撃に呆然として、しばらく動けずに彼女を見つめた。

世界を好きになるべきという思想

「だまってながせを見つめているだけでもよし」
そのような宣言から始まったライブは、その場にいる人が思い思いに楽しみながらも一体感を持った場を形づくっていた。
そういう場にいられたことが本当に幸せだった。

私が最も大切にしたいのは何かを好きでいるときの感情であり、常々世の中の全てを好きになるようにありたいと思っている。
そしてこの目標のために、まず「そのままでいいよ」と受容することを心がけている。
このような思想が長瀬有花の内にも見えた。

もちろん自分の色眼鏡による独りよがりな解釈に過ぎないとは思う。
でもあの瞬間は確かに彼女が私のいるところを通過していて、目指す先にいると感じたのだ。
「だつりょく」とは、物事をまず受け入れてながめてみて、そうしている内に新しい角度で物事が見えてくる、そういう営みなんだと感じた。
そして、そのように似た考えを持っている人が確かにいるんだという事実に勇気をもらえた。

自分の好きな自分になるべきという思想

やがてクラシックの時。
私は彼女のことが好きだが、それ以上に彼女自身の方が長瀬有花を好きでいるということを受け取った。
ステージの上でのふるまいは私の理想に近く、ひたすら良さを噛みしめているだけで時間は過ぎていった。
だまってながせを眺めている内に、彼女もその在り方をはかけがえのないものと思い、そうあろうと選択を重ねてきたことに思い至った。
その瞬間に、私以上にその姿に価値を感じ、そのための選択をしてきた真摯さに感動した。

先の自分の思想に照らしても、私が一番私の事を好きでいられるように、真摯にだつりょくして生活していこうと思った。

他者への「理解」の傲慢さの実感

アフターユの時。
情報量がキャパを超過し始めて、何も考えられなくなり、与えられるものに「いい…」とリアクションすることしか出来なくなっていた。
なんならアフターユ以降、毎曲訳も分からず泣きたい衝動がこみあげてきて目を潤ませていた。

「少しでも君に近づいたら
 さりげない日々の理由もわかるかな
 離れていくものが透き通っていても
 おとなしく逆らう
 わたしは じっ と見る」

ライブの良さの一つに既存の楽曲に意味付けを行ったり、改めてその魅力を提示したりするという性質があると思う。
今回は特にこのフレーズが一番刺さった。

彼女らしい距離感を表していると思うし、それ以上に私のスタンスへの批判を受け取れたのが良かった。
私はよく物事に対して理解という選択肢を選びがちで、あたかもそれを万能なチョイスであると思い込む節がある。
でもそうではなく、わからないものもあって、そういうものも等しく受け容れていこうとする心構えを感じた。
相手に何か働きかけることで相手のことを僅かでも知ろうとしたり、だんだん薄れていくものに対してそれを拒んだりして、好きになっていきたいと心掛けることの尊さを実感した。


おわりに

あの場で感じたものは沢山の文字で表されるような重たい物ではなく、より曖昧で刺激的で直感的なものだった。
自分が軸の部分で共感できる人がいたことが最高に生きていく勇気を与えてくれた。
そのことが尊くて、今も幸福感を受け取っている。
長瀬有花さん、ありがとうございました。

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