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【大人も楽しめる童話】おじいちゃんは名カメラマン

待ちに待った鼓笛隊パレードの朝、
香菜かながはりきって家を出ようとすると、
おじいちゃんが玄関まで出て来て言った。
「香菜、じいちゃん、カメラ持って
 香菜が通るの待ってるからな。頑張れよ」
「うん。でも太鼓とか鉄琴とか
 目立つ楽器じゃなくて、
 私、その他大勢のリコーダーだからさ。
 おじいちゃん、私のこと見つけられるかな」
「なーに、大丈夫だよ。香菜を見つけられない
 わけがないさ、はっはっは」
おじいちゃんは笑いながら、
手に持っていたカメラを見せた。

先月テレビの通信販売で買った、
お気に入りのデジタルカメラだ。
両親は仕事で学校行事には来てくれないけれど、
おじいちゃんかおばあちゃんが
必ず見に来てくれるので、
香菜は寂しくなかった。

香菜たちは先生に導かれて学校を出ると、
演奏しながら商店街をパレードした。
毎年秋に行われる香菜の小学校の恒例行事で、
近所の人たちも楽しみにしている。

香菜の家の近くにさしかかった時、
カメラを両手で、胸の前にしっかりと持つ
おじいちゃんが見えた。
香菜は目で合図したが、
おじいちゃんは気づかない。
きょろきょろと香菜を探し続けている。
(おじいちゃーん、ここよ!)
香菜はリコーダーを吹きながら
心の中で叫んでみたがおじいちゃんには届かず、
とうとう前を通り過ぎてしまった。
その時、やっとおじいちゃんと目があった。

(おじいちゃん、遅いよー)
香菜がそう思った時、おじいちゃんは中腰で
スタスタと香菜を追い抜いてカメラを構えた。
でもファインダーをのぞいている間に、
また香菜は通り過ぎてしまった。
香菜の隣にいた仲よしの涼子ちゃんが、
リコーダーを口から離して吹き出すのが見えた。

おじいちゃんはまた真剣な顔で香菜を追い抜き、
腰を落としてカメラを構えた。
涼子ちゃんがにやにやしているのが目に入ったが、
香菜はおじいちゃんのカメラをじっと見ながら、
すました顔でリコーダーを吹き続けた。

(おじいちゃん、頑張って。早く写真撮って)
そんな思いもむなしく、
香菜はまたおじいちゃんの前を通り過ぎた。

でもおじいちゃんは諦めなかった。
また中腰で香菜を追い抜き、カメラを構えた。
その時、突然鼓笛隊の音が鳴りやんだ。
まわりの友達も、見ている人たちも
みんなとまっている。
香菜もリコーダーを吹いている姿勢のままだ。
(どうしちゃったの、一体…)

香菜は辺りを見まわそうとしたが、
金縛りのように身体が動かない。
目だけ必死に動かすと、とまった景色の中で
唯一おじいちゃんだけが動いていた。
顔がひん曲がるくらいに一生懸命片目をつぶり、
ファインダーをのぞいている。
(あんなに必死でのぞかなくても、
  画面を見ながら撮れるって教えてあげたのにな…)
香菜がそんなことを考えていると、
シャッターの音が静けさの中に響いて、
まわりの景色が再び動き出した。
何事もなかったように、みんな元通りに…。

(すごい! 時間がおじいちゃんに味方して、
 とまってくれんだ、きっと!)
香菜はそう思いながら、
再びリコーダーを吹き始めた。
おじいちゃんはカメラから顔を上げると、
香菜を見て満足そうに笑った。

パレードが終わると、涼子ちゃんが言った。
「香菜ちゃんのおじいちゃん、
 笑わせるんだもーん。私、
 おかしくてリコーダー吹けなかったよー」
涼子ちゃんはおじいちゃんのまねをして
中腰で歩くと、まわりの友達を笑わせた。
香菜は、時間がとまったことに
みんなは気づいてないんだと驚きながら、
(おじいちゃんは笑わせようとなんか
  してないもん。真剣だったんだから)
と思った。

香菜が家に帰るなり、おじいちゃんが
待ち構えていたように言った。
「香菜、じいちゃん、一枚しか撮れなかった。
 本当はもっと撮るつもりだったのになぁ。
 でもほら、よく撮れてるだろ」
おじいちゃんは、ちょっと得意気に
カメラの画像を表示した。
テーブルの上には
説明書が開きっぱなしになっていて、
画像の表示方法のところに
鉛筆で線が引いてある。
「追いかけてもなかなか撮れなくて、
 時間よとまれ! って、祈りながら撮ったんだ」
「おじいさんたら、とまるわけないでしょう」
おばあちゃんに笑われて、
おじいちゃんも少し照れたように笑った。
(本当にとまってたの、気づいてないんだ!)
香菜が思った時、おばあちゃんが言った。
「あら、香菜の隣の子、
  笑っててリコーダー吹いてないわね」
「本当じゃ。けしからん子だな、はっはっは」
香菜が画像をのぞくと、涼子ちゃんが
吹き出すところもばっちり写っていた。 

©2023-2024 alice hanasaki

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