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大人も楽しめる童話集

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大人も楽しめる哲学的な童話
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【大人も楽しめる絵本】月夜のとびうお

©2023 alice hanasaki 最後までお読みくださり, ありがとうございます!^_^ 他の童話も読んでいただければ, もっともっと喜びます。 創作童話のマガジンはコチラ ↓

【大人も楽しめる童話】おじいちゃんは名カメラマン

待ちに待った鼓笛隊パレードの朝、 香菜がはりきって家を出ようとすると、 おじいちゃんが玄関まで出て来て言った。 「香菜、じいちゃん、カメラ持って  香菜が通るの待ってるからな。頑張れよ」 「うん。でも太鼓とか鉄琴とか  目立つ楽器じゃなくて、  私、その他大勢のリコーダーだからさ。  おじいちゃん、私のこと見つけられるかな」 「なーに、大丈夫だよ。香菜を見つけられない  わけがないさ、はっはっは」 おじいちゃんは笑いながら、 手に持っていたカメラを見せた。 先月テレビの通信

【大人も楽しめる童話】紫陽花の浴衣

「長崎のおばあちゃんから、浴衣が届いたわよ。  おばあちゃんの手づくりだって。  …うふふ、おばあちゃんたらまた冗談言って。  着ている人の気分によって花の色が変わる、  ですって。今度のお祭り、これ着て行ったら?」 お母さんが小包を開けて、 おばあちゃんの手紙を読みながら言いました。 「どんな浴衣? 本当に色が変わるの?」 妹のさやかが駆け寄って来ました。 「まさか。おばあちゃんったら、ふざけてるのよ」 「なんだー、つまんないの。  わー、かわいい。さやか、こっちがいいな」

【大人も楽しめる童話】小さな親友

ルカは、脳の病気をわずらっていた。 眠ると、それまでの記憶が消えてしまうのだ。 ルカの毎日は、朝、 前夜に書いた枕元の日記帳を見て、 すべてを確認することから始まる。 「名前はルカ、フランス、 パリ在住、年齢三十五歳、  勤め先はブルージュ不動産…」 ある日の昼休み、ルカはカフェ、ル・ロスタンで、 いつものようにコーヒーを飲みながら、 自分の日記帳をめくっていた。 「あ、クリストフじゃないか!」 店に入って来た自分より少し若い男が、 嬉しそうに肩をたたきながら言った。

【大人も楽しめる童話】『不眠症のひつじ』

「ママ,まだ起きてる?」 こひつじが聞きました。 「ええ,起きてるわよ,ぼうや」 「ぼく,眠れないんだ」 「変ね,ママもなんだか眠くならないわ」 ひつじの親子は,小屋の中でよりそいながら, ひそひそ声で話していました。 「ママ,知ってる?   人間は眠れない時,ぼくたちの数を数えるんだって。  今日,牧場に来てた人間たちの話を聞いちゃったんだ。  じゃあ,ぼくたちは眠れない時,何を数えたらいいんだろうね」 「そうねぇ,じゃあとなりの牧場にいるお馬さんの数を数えてみる?」 「

【大人も楽しめる童話】『いたずらな太陽〜北欧のお話〜』

今からずっと昔のことです。 太陽と月は,昼と夜の間, 交代で空に出て仕事をしていましたが, ある日,太陽が病気になってしまいました。 太陽は交代の時,月に言いました。 「月さん,明日一日, 昼番をお願いできないかしら。 ちょっと調子が悪いのです」 「いいですよ。どうぞおだいじに」 月は快く引き受けました。 自分もいつか病気になるかもしれない。 その時は,夜番を代わってもらうかもしれないから, 太陽が具合の悪い時は, 気持ちよく代わってあげようと思ったのです。 月は

【大人も楽しめる童話】人は2回生まれる?

あぁ,まだこの暖かいお腹の中にいたいなぁ。 でももう出て行かないといけない気がするの。 だってお腹の壁に ぎゅうぎゅう押されている気がするし, もう私は大きくなりすぎて, ここはちょっと,きゅうくつなんだもの…。 まりかちゃんは,ママのお腹の中で思いました。 ”まりか”という名前は, お腹の中の赤ちゃんが女の子だとわかってから, パパとママがつけてくれた名前です。 生まれる前から決まっているようです。 まりかちゃんは,本当は”ありさ”という名前が よかったのだけど, ”ま

【大人も楽しめる童話】せっかちなカメと のんびりやのセミ

「いいお天気ですねぇ」 「そうじゃのう。60年前に, わしらが出会った日も, こんな天気じゃったのう」 アオウミガメのカメ吉じいさんと カメ子ばあさんが,砂浜に上がって 甲羅干しをしながら,仲よく話していました。 2匹とも80歳の,カメの夫婦です。 もう長年連れ添っている, ベテラン夫婦なのです。 スチャチャチャチャ…。 「あぁ,早くしないと。 また会合に遅刻しちまうぜ!  急がなきゃ、急がなきゃ!」 カメ吉じいさんとカメ子ばあさんの前を, ひ孫のカ

【大人も楽しめる童話】つり目のパンダ

パンダと言えば,目の周りの黒い毛が, たれ目のように見えてかわいいイメージがありますが, このパンダは違いました。 目の周りの黒い毛がたれ目ではなく, つり目のようにつり上がっているのです。 このパンダの名前は,パンキーと言いました。 パンキーのお父さんもお母さんも, 目の周りの黒い毛はたれ目でした。 ふたごの弟,ピンキーもたれ目です。 パンキーだけが,突然変異で つり目になってしまったのでした。 こんな姿をしているので, パンキーは動物園のパンダ仲間たちに 怖がられてい

【大人も楽しめる童話】まいごの おまわりさん

「おまえ,また道に迷ったのか。  よくそれで警官が務まるな」 玲(れい)はまた交番の所長に叱られてしまった。 小さい頃から方向音痴で,それは大人になっても、 おまわりさんになっても直らなかった。 玲は今日も巡回中にまいごになって, いつまでたっても自分の交番にたどり着けないので, 道を歩いている中年の女性に 「交番はどこですか」と聞いて,笑われてしまった。 そこに運悪く所長が自転車で巡回に来て, 見られてしまったのだった。 「警官の制服を着て,  市民に道を聞くとはどういう

【大人も楽しめる童話】羊飼いの少年

ちひろは小学一年生の冬休みに, 初めて眠れない夜を経験した。 あまえん坊で,小学生になってからも 両親と一緒の寝室で寝ていたのだが, ある日突然,お母さんに 「もう小学生なんだから,  そろそろ一人で寝られるようにならないとね」 と言われて,両親と違う部屋に寝かされてから, 眠れなくなってしまったのだ。 ちひろは夜中に何度も寝返りを打っては, 枕もとの時計の音を聞いていた。 次の夜も,その次の夜も,ちひろはなかなか寝付けなかった。 夜中に布団をかけに部屋に入ってきたお母さん

【大人も楽しめる童話】眠りの国の落とし穴

「今日生まれたばかりのみなさん,こんばんは。  ではみなさんに,これから眠りの世界を案内しますね」 集まったたくさんの赤ちゃんたちの前で,ガイドさんが言いました。 毎日夜の九時になると,その日に生まれた赤ちゃんたちを集めて、 眠りの国を案内するツアーが行われているのです。 ムーも,今夜ツアーに参加した赤ちゃんの一人でした。 まわりの子たちと同じように,胸をおどらせています。 ムーはまわりをみまわして, 「ボクと同じ日に生まれた子は, こんなにたくさんいるんだなぁ…」 と考え