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ロバート・パティンソンと多角的な現実の断面としての映画

 中学生ぐらいのときトワイライトという初めから終わりまでとにかくR18系二次創作みたいなノリの恋愛小説がめちゃくちゃ流行っていて、挿絵が可愛かったので私も手に取った。吸血鬼に関する伝承とかの枝葉末節の部分は結構悪くなかった記憶があるけど、まあエロ本以上の価値はあんまりないと思う。この手のものによくある通り、主人公は恋愛以外の人間関係を築くのが絶望的に下手で、それは多分彼女の今後にあまり良くない影響を及ぼすので思春期のうちにどうにかしておくべき性質であるが、特にそういうクリティカルな人生の問題が真面目に描かれることはない。彼女は美しいが支配的な人格を持ったヴァンパイアの男に愛され、人間社会から隔絶し、子供を産んだりなんかして話はハッピーエンドということになる。絶対そこから後めちゃ大変だと思うけどな。ていうか信用できない語り手によるDVの話か? ヴァンパイアの彼と結婚して同族になるので人間社会の対人関係を切らなければいけないーっていう部分とか、現実におけるDVでよくある現象(携帯から男の連絡先を削除させたり、退職させたり、友人関係を切らせるやつ)のメタファーが意図せず完成している。

 その支配的なヴァンパイアの男エドワード・カレンを演じたのがロバート・パティンソンだ。

 彼はこの役で一躍有名となったかわいそうな人である。彼は残念ながらDVをするようなタイプの人間ではなかった。それどころか、他の演技やインタビューを見ていくと、どうもかなり知的で穏やかな好ましい人格の持ち主であることが伺える。そのため、当然本人はエドワード・カレンをめちゃくちゃ嫌っている。嘘だと思うならYoutubeでインタビューを漁ると良い。日本語だと無難なコメントしか翻訳されていなかったりするので、英語で探すのが望ましい。

Robert Pattinson hates Twilight( https://youtu.be/nFA6Ycch1EM )

 言いたい放題すぎて笑うしかない。ステファニーメイヤーの性的妄想を読まされていると居心地が悪くなる的なことを言っている下りでクソ笑ってしまった。

 ところで私は映画が好きだ。映画はたくさんの人が関わるので、時に原作者や監督、脚本家、そして俳優たちの解釈がぶつかり意図しない奇妙なリアリティが形成されることがあるように思う。そしてそこが、基本的には一人の作者の支配力が強い小説とは一線を画する点だと思う。

 たとえば「プラダを着た悪魔」のミランダは、ヒステリックでそこまで魅力のない人物として想定されていたが、名女優メリル・ストリープは彼女を甲高い声で演じたりはせず、あえて低くて落ち着いた静かな声で演じることに拘った。低いトーンでしゃべっているにもかかわらず周りがすくみ上がり怯える様子から、権力と地位が強調され、ミランダは表層的でない確かな実力を持った大物として立体的に立ち上がってくる。この間放送された「おおかみこどもの雨と雪」では、花がスピリチュアル育児本を持っていることに着目した記事( https://web.archive.org/web/20120825142309/http://inspirace.expressweb.jp/wp/?p=104 )を見かけたが、これも監督が意図しないリアリティを脚本家が与えた好例だと思う。

 三文恋愛映画トワイライトもまたその例外ではない。

 ロバート・パティンソンは知的ではあるがふざけた人物で、インタビューで言っていることもどこまで本気でどこまで冗談なのかよくわからないところがあるが、これだけは本当だろうなというコメントが一つある。それは、「自分はエドワード・カレンをちょっと頭がおかしい人物として演じた。だって実際彼の行動は正気じゃないでしょ」というものだ。

 まさしくこの解釈! この解釈こそが映画に妙な説得力を与え、ヒットに導いていると私は思う。これだからロバート・パティンソンはいい俳優なのだ。

 そもそもエドワードが支配的でちょっとDVをしそうな危うい感じを持っている以上、(シャイロ・フェルナンデスがオーディションでしたように)彼を「完璧な人」として演じるのは解釈として間違っているのである。ステファニー・メイヤーが描いたトワイライトは、立体的で多角的な現実を脳内お花畑フィルターで切り取った断面図なのであり、現実そのものではない。原作あり映画を作るということはその現実に新しく別な断面を入れるということであり、決して断面図の劣化コピーを作り出すことじゃないのだ。ロバート・パティンソンは優れた役者なので、エドワードをリアルに想像することができた。そして彼をちょっとおかしい奴として捉え直した。自分なりの断面を入れたのだ。かくしてエドワードはリアルで立体的な人物として映画に立ち現れ、無事(ロバート・パティンソン当人に取っては不本意なほどだったかもしれないが)映画はヒットした。


( https://youtu.be/9kdy6IpoHEI

ちなみにこの短編?映像は、ロバート・パティンソン本人が脚本を書いたものらしいが、地下鉄の入り口で「Oh my god!」とファンガールに声をかけられて奇声をあげて逃げるシーンがあり、トワイライトが彼に残したトラウマが伺える。お気の毒すぎる)



 ロバート・パティンソンはトワイライトにうんざりしたあとはかなり仕事を慎重に選んでいる。「グッドタイム」「ハイライフ」「悪魔はいつもそこに」、そして最近では「ライトハウス」あたりが評判がいい。ライトハウスは私は今週末日本でも公開されるので見に行こうと思っているが、他は全部みた。特に「グッドタイム」は素晴らしい映画だった。

 「グッドタイム」「ハイライフ」「悪魔はいつもそこに」の2作では、ロバート・パティンソンの俳優としての個性が際立って現れている。しかもそれが偶然ではなく、制作陣によって意図的に活用されているようである。

 次はそのことについて書きます。

 じゃあね〜〜

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