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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第20話)#創作大賞2024


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 負傷した猫を保護した日から二日後。
写真部にとっては年に一度の大きな大会、高校生写真コンテストが開催された。今年の会場は県立S高等学校だ。

 S高は、H高とは県内で一位二位を争う進学校で、つねに良きライバル関係にある。H高が歴史を重んじ親和や団結精神を掲げるのに対し、S高はグローバルで柔軟な人材育成に力を入れている。

 星来は両親の母校で家から近いという理由でH高を選んだ。

 友人たちは制服が可愛いからとか、憧れの先輩がいるからとか、バスケの強豪だからとかそれなりの理由を持って志望校を選んでいたが、星来にはあまりこだわりがなかった。強いて言うなら、高校時代に運命の出逢いを果たした両親の青春を追体験したかった。

 写真部の部員たちは会場がS高と知って大いに盛り上がった。どちらも長い歴史のある学校ではあるが、S高は数年前に校舎の建て替えを行い、デザイン性のある近代的な外観とアクティブラーニング設備や食堂、カフェの充実で周辺高校から羨望の眼差しを向けられていた。校舎が古く、故障中のトイレが点在するH高とは比べ物にならない。

 しかしそれ以上に、とりわけ女子生徒を歓喜させる人物がS高にはいた。写真部の三年生で部長も務めている片桐紘也だ。目立った行動は一切ないのに容姿が整っているせいで、どこにいても目に付く。勉強もできる上にイケメンなので、その人格も自動的にイケメンということになっていた。

 しかし、一度写真部の代表会議で一緒になったことがあるが、星来は心なしか冷たい印象を持った。

 新進フォトグラファーの講演を聞いた後、近くの者同士で集まって意見交換をする時間があった。近くの者同士と言われているのに、どこかの高校の女子生徒二人がキャーキャー騒ぎながら、わざわざ遠くから片桐のそばにやってきた。

 ほんの一瞬だったが、片桐の顔が凍り付いたように表情を無くしたのを、星来は見逃さなかった。立ち居振る舞いのせいで一見余裕のある人間のように見えるが、実際はそうでもないのかもしれない。

 優しげな笑顔もどこか取ってつけたようで、演技っぽく感じられた。とはいえ、イケメンであることは紛れもない事実だ。いつか機会があれば被写体になってもらいたいという気持ちもあるが、近隣校写真部全女子から息の根を止められるのは確実。願望は胸の奥にしまっておく。

 今回の高校生フォトコンがS高開催であることの楽しみはほかにもあった。SNSでつながったジョウくんもS高生だ。機会があれば挨拶をして色々話してみたいと思っていた。どうしたらあんなふうに素敵な色彩になるの? フォト垢のコメント返し、一つともらさず面白くて全部読んじゃうんだけど、フォロワーを惹きつけるコツとかってあるの?

 だが、いざ当日になると三階席まである多目的ホールでは各校ごとに座る場所が指定されており、ホスト校であるS高生は皆壇上で司会進行を務めていて、接触する機会は得られなかった。

 とはいえ、片桐紘也を堂々と鑑賞することができたし、星来の作品はグランプリこそ逃してしまったものの、入賞することができた。ジョウくんが自分を見つけてくれて、ずっと視線を送ってきてくれたことにも満足だった。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門


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