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【文学フリマ東京38】アンソロジー「汀心」について

こんにちは。あくたんです。

アンソロジーの情報がまとまってきたので、ご報告いたします。

・アンソロジー「汀心」
・アンソロジー第一弾「汀心 vol.1 恐怖について」
・作品紹介
・著者メッセ―ジ/プロフィール紹介


「汀心」

心の縁を揺らすアンソロジー「汀心」を刊行します。

「汀心」では、一つのテーマに関連する小説・エッセイ・詩・評論などの様々な作品を皆様にお届けし、あなたの心の縁をあなたらしく揺らします。


「汀心 vol.1 恐怖について」


表紙


目次


今回は第一弾として「恐怖」をテーマとする「汀心 vol.1 恐怖について」を刊行します。9人のメンバーが創り上げた小説4作、エッセイ2作、詩2作、書評1作、映画評3作の計12作をお届けします。

文学フリマ東京38(2024/5/19)を皮切りに、その他イベントや各書店などで販売させていただく予定です。お楽しみに。


作品紹介

「汀心 vol.1 恐怖について」に掲載する全12作品の一部を引用紹介します。

【小説】

 杉森仁香「未解決未発生事件」

【治の証言】
 インター近くの潰れたラブホに暇なとき集まるんよ。なんでそこやったんかは知らんわ。とにかく先輩に連れてかれて、その先輩もそのまた先輩に連れてこられたんやと。
 先輩らはほんっといかつくて、喧嘩とかほとんど半殺しみてえになるんやけど、そんな怖い先輩らがみんなして怖がっとんのがラブホの五階やった。そのラブホ、エレベーターは壊れとるけど、非常階段で上行けんの。最上階が五階。最初はなにが怖いんかよおわからんかったけど、凛花のアレがあってからみんな「五階はやばい」ってなってん。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 不浦暖「共棲のレッスン」

 音楽室の前にしつらえられた水飲み場の蛇口をひねり、喉の渇きを潤している川奈野遥にわたしは囁くように、密やかに話しかけた。
 ──わたし、先輩なの。
 不意に蝿が飛んできたかのように肩を上げ、顔をふるわせ、口元を蛇口から一瞬にして離す川奈野遥の頬には水滴が這って、わたしを見上げていた。上を向いた蛇口から噴出する水が弧を描き、鏡が音楽室の掲示板を映していた。シティ・ジャズ・フェスティバル、チケット発売中。
 ──あ、え? ああ、こんにちは。お疲れ様です。
 ──そうじゃなくて、蜘蛛の話。
 ──ああ、それ。不愉快でした? あれから苦情が殺到しています。本当にすごいですよ。のべ百人くらい。
 ──そうじゃなくて、わたしは九歳のときだった。悪夢だと思った。いわゆる不思議の国のアリス症候群って病気、あの類だと思ってた。でもそうじゃなかった。
 シンクの銀色に弾ける水がブラウスを幽かに濡らして、川奈野遥が水を止めた。束の間の静寂。音楽室からアルトサックスの音色が響き渡った。
 ──続けて。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 長澤沙也加「ミックロンソンおばけ」

 池の中でなにかが跳ねた。赤い、多分鯉。
 わたしとまやちゃんが座るテラス席は日本庭園のようになっていて、灯篭と池と玉砂利と大きな石と松の木と、密集した葉っぱを棒アイスみたいに整えられた木が三本ある。池で跳ねたのがほんとうに鯉か確かめたくて、もう一度跳ねないかと思って見ていたら、奥にある棒アイスの木の三本ある真ん中と右端の根元の間に、小さい女の子がいた。
「ちんくんとさ、」
 本当に小さい。赤いサスペンダー付きのプリーツスカートを穿いている。茶色いおかっぱ髪。本当に小さい。多分、わたしの膝までしかない。
「一緒に住まないの?」
 小さい女の子はこっちを見ている。なにか言いたげに、じっと見てくる。動かない。動いた。鼻をかいた。痒いんだ。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 芥川心之介「サラムン」

 じっと息を潜めていたのは息がうるさかったからである。ガスと配管の内壁との摩擦音が行ったり来たりする音。同じくらいの周期で始まりから終わりまで延々と繰り返される音。寝ていても覚めていても意識の有無に関わらず出力が繰り返される音。自然と人工の両方の要素を兼ね備えて産まれては消える音。私はその透き通るような繊細な音が耳の外から空気を介して届いているのか体の内の主に水分を伝ってきているのか分からない。分かり方は想像もつかない。もちろんその両方が入り混じったり掛け合わされていたりする可能性もあるに違いない。仮にそうだとしてそれぞれがどの程度の割合でブレンドされているのか知るわけがなく相乗効果について考慮する必要があるかどうかも判断できない。ただそう思っている間もじっと息を潜めていることだけははっきりと理解している。確かに認識できている。

「汀心 vol.1 恐怖について」


【エッセイ】

 作田優「わたしを消さないで」

 夫が関東の観光地に友達と行ってきた。帰ってきた夫が興奮気味に観光地の画像を見せてきた。そこはあるアニメの聖地らしい。夫が写真とアニメの画像を交互にわたしに見せた。
 同じだ。すごい! と興奮するわたしに夫は、
「ここに座っている人がいたから消したんだ」
「え? え? どうやって?」
「消しゴムマジックで消したんだよ」
 どうやらスマホにもともとある機能らしく、画像に入っている人や障害物を消すことができるそうだ。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 芥川心之介「恐怖を一切感じない」

 精神科で、自分の感じた恐怖に気付く力が皆無だと言われた。面談とアセスメント診断の結果、恐怖に気付く力が0点だったらしい。つまり私が「自分は恐怖を感じていない」と認識したとしても、実は一次的な感覚としては恐怖を感じていて、二次的な感覚(自覚)としてそれに気付いていないだけという可能性もあるらしい。私が一次的に恐怖を感じていないのか、それとも二次的に恐怖を感じていないだけなのかを判断する術はないが、少なくとも自覚としては、恐怖を感じにくい。

「汀心 vol.1 恐怖について」


【詩】

 葛間野葛間「夢寐のあなた」

レエスのカーテンを裂く音
僅かに震える
くうきを
誰も存ぜず

椿の真盛りを
鉞で切り落とし
葬列をつくり微笑んで
あなたはすましているのですね

「汀心 vol.1 恐怖について」


 葛間野葛間「水栽培」

水栽培しています
あなたの首を
盗品で飾られたこのお部屋で

「汀心 vol.1 恐怖について」


【書評】

 継堀雪見「You can (not) change the Special world.」

 『スペシャル』
   作:平方イコルスン

 読み進めるたびに笑いと戸惑いと錯乱が増す読書体験を保証しよう。「文学系スクール・コメディ」と第一巻の帯では称されているが、何一つ間違いではない。「黙示録的世界」と最終巻の帯には書かれているが、これもいたって正しい。八年間にわたって連載された長編青春漫画の歪さを指し示すにあたって、つまりは同じ事象を指している。この「スペシャル」な物語は、どことなく可笑しく、あまりに不穏で、刻一刻と変容していき、途方もない地点へと辿り着くのだ。

「汀心 vol.1 恐怖について」


【映画評】

 山本雨季「『哭悲 THE SADNESS』はゾンビ映画にあらず」

 『哭悲 THE SADNESS』
   監督:ロブ・ジャバズ

 一見すると、感染系ゾンビ映画の傑作『28日後…』(二〇〇二年、英国。ダニー・ボイル監督作品)等のフォロワーのようにも思えるこの作品。筆者も初見時は凄絶と言ってもよいくらいの血の気の多さに昂奮はしたものの、所詮はいわゆる感染系ゾンビ映画の一種に過ぎないと判断してしまった。恐らく多くの観客も、その容貌や行動の急激な変化から、感染者たちを「ゾンビ」として認識したまま、本作をラストまで観終えてしまうに違いない。だが、果たして簡単にそして安直に単なる「ゾンビ映画」と括ってしまってもよいのだろうか。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 浅山幹也「『コンジアム』のカメラワークが炙りだす恐怖」

 『コンジアム』
 監督:チョン・ボムシク

 心霊スポットで生中継をするYouTuberを描いた韓国のフェイクドキュメンタリー映画『コンジアム』は、目まぐるしく変わるカメラワークによって、鑑賞者の視点を作品内に巧みに組み込むホラー映画である。本論で私は『コンジアム』を観る際に生じる、鑑賞者の視点の移行のあり様を、作品内のカメラワークの要点を記述することにより、再現する。この再現によって、映画『コンジアム』がどの様な恐怖を鑑賞者に与えるのか、炙りだす。

「汀心 vol.1 恐怖について」


 芥川心之介「いつ訪れてもいいように」

 『ファニーゲーム』
 監督:ミヒャエル・ハネケ

 人間が恐怖を求める理由には、より大きな恐怖に慣れるため、恐怖を脱する瞬間にアヘン様の神経伝達物質が放出されるため、などの説があるが、明確な答えは出ていない。実際の理由が何であれ、心理学者のBloomは本質主義の考え方を基に、人間は本質的に安全な虚構だと認知できる恐怖を求めるとしている。裏を返せば、虚構だと認知し難い恐怖は求めにくく、つまり強大な恐怖となる。
 この観点において、現実と虚構の間を隔てる「第四の壁」を様々な手法で崩しにかかる映画『ファニーゲーム』は、多くの人々に強度の高い恐怖を与えうる作品だ。

「汀心 vol.1 恐怖について」



著者メッセージ/プロフィール紹介


芥川心之介(あくたがわ・しんのすけ)
 X @Akutan340506
 一九九六年愛媛県生まれ。年間百本以上のホラー映画を観る。第三十八回太宰治賞最終候補「×没」。


杉森仁香(すぎもり・にか)
 X @sgmrnk
 一九九〇年静岡県生まれ。好きな役は三色。「夏影は残る」で第三十回やまなし文学賞受賞。第八回、第十回林芙美子文学賞最終候補。


不浦暖(ふうら・だん)
 X @andapophantic
 音楽を作り、映画を観る。何かの手違いで、自分の小説がチラズアート製作でゲーム化されることを密かに夢見ている。第六十六回群像新人文学賞最終候補「Waltz」(『FFEEN vol.3』収録)。


長澤沙也加(ながさわ・さやか)
 X @naga_saya_ht
 小説と詩やいろいろ書いています。甘いものが好きです。第一回氷室冴子青春文学賞準大賞。第三十七回太宰治賞最終候補「私鉄系第三惑星」。


作田優(さくた・ゆう)
 X @yu_Sakuta
 小説を書いたりZINEを作ったりしています。第六十三回群像新人文学賞最終候補。


葛間野葛間(くずま・のくずま)
 X @castleincastle
 山梨県生まれ。ゴシック&ロリィタを愛する。第十七回「文芸思潮」現代詩賞奨励賞。第三回「文芸思潮」短歌賞奨励賞。


継堀雪見(つぎほり・ゆきみ)
 X @tsugihoriyukimi
 一九九二年福岡県生まれ。インターネットとコタツが大好き。部屋の整理が苦手で困っている。


山本雨季(やまもと・うき)
 X @ukikocandy
 和歌山県出身。小説(主に純文学)や詩を書いています。テクノをはじめとするエレクトロニック・ミュージックや時代劇、ゴア映画が好き。


浅山幹也(あさやま・みきや)
 X @alex7mikiya
 大阪在住。俳人。「ことばの学校」第一期修了生。二〇二二年九月にテアトル梅田で開催されたバスター・キートン特集のパンフレット編集主幹。



最後に

「汀心 vol.1 恐怖について」を文学フリマ東京38で出品します。ブースはE-47です。

多めに刷りますが、在庫には限りがございますので取り置きがおすすめです。取り置きをご希望の際は、私のXのアカウント(@Akutan340506)にリプライやDMでお伝えください。

皆様とお会いできること、とっても楽しみにしております。


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