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福岡のソバ屋で「憩う」昼下がり

福岡はうどん文化ということもあり、子供の頃に自宅で食べる麺といえば、もっぱらうどん(時々チャンポン)で、蕎麦を食すのは大晦日ぐらい。ましてや、外で蕎麦を食べるようになったのは、大学生になってから。

そんな自分の蕎麦ライフを変えたのが、故・杉浦日向子さんと「ソ連(ソバ好き連)」の著書『ソバ屋で憩う』。101軒の蕎麦の名店を紹介したものですが、単なるグルメ本ではなく、酒と共に蕎麦屋で「憩う」という楽しみ方を教えてくれた本でした。ある店はこんな風に描写されています。

仲良し同士で行ったら、かけまたは天婦羅蕎麦、一椀まわし食べつつ、つまみとして呑むのもいい。並木のかけ汁で呑む菊正は格別。熱々のを半分ばかし食い散らかし、おもむろに酒を追加。残り半分は、しばしほったらかしにして、さしつさされつ。

覚めやらぬ頃合いを計って、つゆをたっぷり吸い込んで、グラマラスにふやけた天ぷら(芝エビのかき揚げ)と麺が丼中にほぐれていくのを、椀のふちに接吻するようにして、口に含む。昼下がりの情事。最高にエロチックな、禁断の桃源郷。ようこそ、ソバ好き連へ。大人になって良かったね。

東京ほどではないにしろ、福岡にも蕎麦の名店は少なくなく。「信州そば むらた」、「博多 藪」、「みすゞ庵」、「加辺屋」、「蕎麦木曽路」、「多め勢」などなど。

とはいえ、目的がソバ屋で「憩う」となれば、「やぶ金」をお勧めしたい。古民家を改造した落ち着いた佇まい。混雑時を避けた昼下がり、蕎麦味噌やだし巻きなどを先に頼み、日本酒をチビチビ(ビールも可)。後から来た天せいろの天婦羅をつまみに、酒を追加。締めで蕎麦をいただくと。

外に出れば、陽はまだ高く。昼間っからほろ酔いの、至福の時間。大人になってよかったね。

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