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ある本を読んで

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2018年1月の記事一覧

「愛に乱暴」吉田修一著 を読んで

狂って見えるのか、狂って見せているのか、本当に狂っているのか、

決めるのは誰なのだろう。

狂っていると、果たしてその時自分で分かるのだろうか。
#コラム #本 #吉田修一

「静子の日常」井上新野著 を読んで

人生にも映画のように音楽が流れればいいのにと思う事がある。そうしたら救われるのに。

井上さんの作品はそういう意味で、音楽のない文章だ。頑張っても報われないし、期待通りにはならないし。困っていても誰も助けてなんてくれない。すれ違った気持ちは伝わらないまま。怒っても喧嘩になることもなく、なんとなく過ぎていく。悲しみや憎しみはドラマチックなものなんかじゃなくて、もっと日常的なものなのだ。

井上さんは

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いけ好かない女 中山美穂演(仮)/「優しい訴え」小川洋子著 を読んで

「博士の愛した数式」を、長い間読めずにいた。10年くらい。すごく悲しいお話な気がして手が出せなかった。老人と動物の話に弱いのだ。

ところがある時、実家の本棚でこの本の文庫を見つけ、なぜだかふと読み始めてみた。

たちまち引き込まれた。朗らかで可愛らしくてロマンチックで、温度があるみたいな文章だった。読み終わる頃には愛おしくて、宝物のように、そっとずっと大切にしたい一冊となった。

続けて読んだ「

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ゲスい男 要潤演(仮) / 「鳩の襲撃法」佐藤正午著 を読んで

佐藤正午さんという人は、プラモデルを組み立てるような文章を書く人だ。全体の設計図をしっかり描いてから、細かい部品を一つ一つ丁寧に作り、それらを組み立てて全体を完成させる。

面白い。構成も凝っているし、台詞も描写も隙がない。

そして何よりこの人は捻くれている。捻くれ者の私は捻くれ者が大好きだ。

主人公は津田さんである。「愛とスープは冷めるものだ」の。「困った時頼りになるのはやっぱり女だ」の。

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少し若い男 菅田将暉演(仮) / 「切羽へ」井上荒野著 を読んで

他人の感情を、たとえばその後の行為は批評できても、その感情自体を否定する事は絶対にしてはいけないと思っている。
どんなに此方からは理解できなくても、その時感じた気持ちはその人だけのもので、外からは分かり得ないからだ。

怒ったでも、傷ついたでも、嬉しいでも、そして誰かを好きになったでも。

九州の離島で暮らす主人公の30過ぎの女性は、夫を愛していて、愛されていて、しかしある時島に新しくやって来た、

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