いけ好かない女 中山美穂演(仮)/「優しい訴え」小川洋子著 を読んで

「博士の愛した数式」を、長い間読めずにいた。10年くらい。すごく悲しいお話な気がして手が出せなかった。老人と動物の話に弱いのだ。

ところがある時、実家の本棚でこの本の文庫を見つけ、なぜだかふと読み始めてみた。

たちまち引き込まれた。朗らかで可愛らしくてロマンチックで、温度があるみたいな文章だった。読み終わる頃には愛おしくて、宝物のように、そっとずっと大切にしたい一冊となった。

続けて読んだ「ミーナの行進」も同じ様な印象だった。

そして少し間があいて、先日「優しい訴え」を読んだ。
驚いた。
主人公の女がまあいけ好かない。
40代の美人カリグラファー(美人とは書いてないけど絶対そう)、医者の夫との間に子供はおらず、ある日突然実家の別荘のある長野へ一人向かう。そこで暮らすバツイチのチェンバロ製作者と出会い、恋に落ちる。
ある嵐の晩、酔っ払いが間違えて彼女の家を訪ねてきたのをいい事に、彼の家へ逃げ込み、さらには夫に暴力振るわれていた事を告白する。

カー、ペッペッ!!

いけ好かない、なんともいけ好かない。
ここで私は一度本を閉じた。

始めから感じていたモヤモヤが確信に変わり〈ワタシコイツキライ〉、もうリタイアしてしまおうかと思った。

しかしふと、先日「罪と罰を読まない」から学んだ技術を思い出した。嫌な登場人物が出てきた時は、「あーやだやだ」ではなく、「何こいつちょーウケるんですけどー!」とギャル的包容力で受け止めるのだ。

その聖者の言葉を持って再び彼女に目を向けると「なにこいつマジやばーい、ありえなくなーい」と、むしろ面白味を与えてくれる人物として映り始める。

この役、中山美穂さんが演ったら絶対うまいだろうなー。ああ、もう中山美穂にしか見えない。そしたらチェンバロ製作者はディーンフジオカで、彼を支えるお弟子さんは本田翼ちゃん、暴力夫は袴田吉彦、夫の浮気相手の強かな技術士は倉科カナちゃんだわ!

すらすらと配役が決まると、ページもすらすらと捲れるようになる。

そして気づく。どんなにいけ好かない女が主人公でも、小川さんの温度は変わらない。もっと大人になったら、また違って読めそうな気もする。
この本もまた、前の2つに並べて置こう。

そして上記の配役で、ぜひ映画にしてもらいたい。できたら岩井監督に。

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