中国フードテック市場 最新動向(前編)|カオスマップ 2020公開
2020年は中国フードテック元年と呼ぶべき年だ。
米Beyond Meat(ビヨンド・ミート)のナスダックへ上場により、フードテックが一躍脚光を浴びたことは記憶に新しい。ビル・ゲイツも投資する急成長市場での一攫千金を狙って、中国でも雨後の筍の如くスタートアップが誕生している。
本記事では主要プレイヤーの最新動向とともに、中国における人工肉の今後の展望を紐解いていく。
高まる人工肉ニーズ
まず前提として、人工肉は大きく2種類に分類される。豆類や小麦からタンパク質を抽出して肉の味や食感を再現する「植物肉」と、動物の細胞の一部を培養して作られる「培養肉」だ。市場に出回っている人工肉のほとんどが植物肉にあたり、培養肉は生産コストが非常に高価なため商用化前のフェーズにある。
中国で人工肉の需要が高まっている背景は大きく2つある。1つ目は食糧危機リスクの高まりだ。中国は世界最大の豚肉消費国だが、2018年以降豚コレラ蔓延の影響により豚肉価格が高騰している。8月に習近平国家主席が飲食浪費行動を阻止する重要指示「光盘行動」(光盘:皿を空にするの意)を出していることからも、その深刻さが窺える。
2つ目は食品安全性に対する意識の向上だ。コロナウイルスの発生を機に畜産物の伝染病リスクが顕在化し、人工肉は消費者の新たな選択肢として存在感を高めている。
玉石混淆の参入プレイヤー
中国フードテック領域には、国内外のスタートアップおよび大手メーカーの参入が相次いでいる。参入プレイヤーを3つのカテゴリーでカオスマップに整理した。
・人工肉・代替プロテインスタートアップ
人工肉・代替プロテインに特化したスタートアップおよび従来企業による新規ブランド
・ベジタリアン食材・食肉メーカー
従来のベジタリアン向け食材メーカーおよび食肉メーカー
・販売パートナー企業
販売提携先である外食チェーンおよび食品ブランド
※20年9月時点で中国での販売実績がある、もしくは中国進出を発表している企業を掲載。
各社の技術水準は玉石混淆だ。市場が未成熟なフェーズであり、短いスパンで勢力図が大きく塗り替えられる可能性は十分にあるだろう。
ローカライズに苦戦するアメリカ企業
まずは、フードテック市場を牽引するアメリカ3大巨頭の中国市場での動向を紹介する。
Beyond Meatは今年4月のスターバックスとの提携を皮切りに、ケンタッキーでも数量限定で人工肉チキンナゲットのテスト販売を実施。整理券は1時間足らずで完売し話題を集めた。
こうしたテストマーケティングを経て、今年7月にはアリババ傘下のニューリテールスーパー盒马鲜生(Hema)で、冷凍ハンバーガーパテの販売を本格的に開始している。
またImpossible foods(インポッシブルフーズ)は昨年の中国国際輸入博覧会に出展し、人工肉バーガーの試食を待つ人で長蛇の列ができた。同社のコア技術は突出しており、大豆の根粒に含まれる「ヘム」という化合物を生成し、本物の肉に近い風味や香りを再現する。だが生産過程で遺伝子改変を行っているため、中国大陸での許認可取得に障壁があり未だ販売には至っていない。
100%植物由来の代替卵「JUST Egg」を主力商品とするJUST(ジャスト)も苦戦を強いられる。Tmall旗艦店での販売価格は49元/瓶(≒740円)で、1瓶は卵約6個分に相当する。一般消費者には手を出しにくい価格であり、月間販売数は約10件と厳しい状況だ(20年9月現在)。
各社の販売が振るわない要因は、ローカライズ戦略にあると考えられる。欧米の商品をそのまま持ち込み、流通チャネルも同様にファストフードチェーンとスーパー中心だ。欧米と比較して人工肉の認知が低く、環境保護意識も希薄な状況を鑑みると、現段階で不特定多数のマス向けに訴求するのは極めてハードルが高いだろう。
中国企業のキーワードは「国貨」「顔値」
一方中国企業は、マーケティングが功を奏し一定の盛り上がりを見せている。中国・香港企業の特徴は大きく2つある。
1つ目は、中国人の食習慣と親和性の高い商品展開である。
アジア発祥の人工肉として注目を浴びているのが「Omnipork (オムニポーク)」だ。消費量の多い豚肉のリプレイスとなる商品を中心に展開する。
昨年11月の淘宝造物节(Taobao Maker Festival)にて、筆者もOmniporkの人工肉ハンバーガーを試食したが、若干大豆の風味が強いものの本物の肉とほぼ変わらない食感であった。
同月にオープンしたTmall国際旗艦店では、発売から2日間で1トンに相当する4,000個の売上実績を叩き出している。
他にも伝統食材に着目した商品として、「珍肉(Zhen Meat)」の月餅や、大手製菓メーカー百草味と提携した「Hey Maet」のちまきが挙げられる。
2つ目は、ターゲットを若年層に絞って訴求している点である。
代表的なのが国内スタートアップの中でも融資額トップを誇る「星期零(スターフィールド)」だ。同社は若者に人気の外食チェーンとの提携を通じて、未来感のあるイメージとともに体験型の仕掛けを矢継ぎ早に打ち出している。
その第一弾が、人気ティースタンド「奈雪の茶」とのコラボレーションだ。昨年11月、リアル旗艦店としてオープンした深圳の「奈雪夢工場」にて、人工肉を使った3商品を取り揃えた。フォトジェニックな店舗には多くの若者が足を運び、1時間足らずで完売するほどの盛況ぶりであった。
さらに今年5月には、チーズティーで知られる人気ティースタンド「喜茶」とのコラボ商品である「未来肉チーズバーガー」を展開。ターゲットが好む「顔値」(中国語で顔面偏差値の意)の高い、未来感あふれるビジュアルが印象的だ。
このように、伝統的な食習慣に特化した商品ラインナップや “映える”クリエイティブが、火付け役である若年層の心を掴んでいると言えるだろう。
~後編に続く~
参考:
「习近平作出重要指示强调 坚决制止餐饮浪费行为切实培养节约习惯 在全社会营造浪费可耻节约为荣的氛围」新华网、2020年
「Beyond Meat早期投资人:中国目前是全球人造肉第一大市场」财经涂鸦、2020年
「人造肉 Beyond Meat 宣布进军国内,盒马成首站」新京报、2020年
「美国植物蛋「JUST 皆食得」正式进军中国,食品行业或将迎来技术革命」36氪、2019年
「食品饮料行业:蛋白新能源,深度探索人造肉行业革命之路」天风证券、2020年
「在中国,“人造肉”能成为消费常态吗?」时趣、2020年
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