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長めのショートショート・短編小説

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1000字以上のショートショートや短編小説を集めています。 どこかの文学賞に出してあえなく撃沈した作品の供養も兼ねております😅
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今昔コロツケー奇譚 〈3998字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品③

今昔コロツケー奇譚 〈3998字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品③

表通りから離れた狭い路地の奥に、その小さな店はあった。
外の看板にはひとまずバーと謳ってあるが、入ってみれば壁中所狭しと品書きが貼ってある店内は、むしろ寿司屋のカウンターに近い。
ポテト・かぼちゃ・クリーム・さつまいも・カレーポテト・餅・チキンライス……

「ねえマスター。俺さ、この店通うようになってから、何だか元気になったみたいだ」
「ほう、そうですか」

客は若い男が一人いるだけだった。中年の

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令和青春恋絵巻 〈3997字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品①

令和青春恋絵巻 〈3997字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品①

「はあ……マジで無理……」
 紫苑は、ため息まじりに部屋の天井を仰いだ。頭の中に放課後の光景がまざまざと甦る。

「一之瀬さん、隣の席だからって中里君にベタベタしないで。目障りなのよ」
 誰もいない教室で、まるで般若のような形相の清原香澄に睨みつけられた紫苑は、才色兼備で名高い香澄の豹変ぶりに言葉を失った。
 確かに中里哲哉とは時折会話を交わすこともなくはない。だが顔立ちが良く性格も爽やかな上に、

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月のうさぎの宅配便 〈4144字〉

月のうさぎの宅配便 〈4144字〉

 ――このままじゃ間に合わない。
 暗い寝室のベッドの中で、謙介は焦りを募らせていた。
 応募する予定の文学賞の締切が一か月後に迫っているというのに、原稿はおろか物語の欠片すら浮かばないのだ。コンピュータの画面を前に、ただ空しく時間が過ぎる毎日が続いていた。

 俺、才能ないのかな……。
 謙介はため息をつくと、億劫に寝返りをうった。何だか窓から差し込む月明かりがいやに明るい。寝たままちらりとカー

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狐棲む杜 〈4166字〉

狐棲む杜 〈4166字〉

「じゃあ、みんな元気で夏休みを過ごして下さい。遊び過ぎて宿題を忘れないようにね」
 先生の声に、クラス中が歓声で応えた。
 いよいよ明日から夏休みだ。
 みんな両手いっぱいの荷物で、わっと一斉に教室を飛び出した。

「なあ。夏休みの自由研究、何やる?」
「オレ、父ちゃんと飛行機の模型作るんだ!ほんとに飛ぶやつさ。オレの父ちゃん、めっちゃ器用なんだぜ」
「僕んちは夏休みにヨーロッパ行くから、外国の言

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