見出し画像

'95 till Infinity 152

⇒ '95 till Infinity 目次は こちら

【 第9章 : Unfolded Nothing-① 】

語り終わったカイロはギアレバーのところに置いた煙草に手を伸ばし、ちらちらと前を見ながら抜き出した煙草に火をつける。カイロが噴出した煙はすぐにエアコンの風に掻き消される。

寒い、とてつもなく寒い。
骨が軋むような寒さだ。

この寒さと同じ寒さを俺は知っている。
カムダウンのどうしようもない寒さ。

毛布を何枚重ねても、それを通り抜け、肉を、骨を体を心を凍らせるような寒さ。毛布のようなただ寒さを防ぐようなものじゃどうにもできない。隣に誰か自ら熱を放つような、誰か、誰かががいないと耐え切れないような寒さ。

あの日も雨が降っていた。
叩きつけるような雨音を聞きながら、俺は1人震えていた。

誰もいない、俺の人生には誰もいない。俺はそう考えながら、その考えに押し潰れそうになりながら、毛布に包まってただ闘っていた。

ガンジャもなかった。
酒もなかった。
ローヒプノールも、何もなかった。

俺を少しでも温めてくれそうなものは何1つとして俺の家にはなかったし、この苦しみから俺を救ってくれる人間がこの世界のどこか、どこか遠いところにでも、1人でもいるなんてことも俺は思えなかった。

光もない深海で俺はただ1人震えていた。
誰かが消えいくような音でドアを叩いた。

そんな音でドアを叩くような人間を俺は1人しか知らなかった。俺はドアを開けた。そこにはずぶ濡れのエマがいた。


"早く続きが読みたい!"という方は、有料マガジンで。

*先出有料マガジンについては こちら

noteも含めた"アウトプット"に生きる本や音楽、DVD等に使います。海外移住時に銀行とケンカして使える日本の口座がないんで、次回帰国時に口座開設 or 使ってない口座を復活するまで貯めに貯めてAmazonで買わせてもらいます。