NHK短歌に送って💢没った💢エッセイ6
山のあなた
水と緑と空気の綺麗なところに住みたい、と子供の頃から思ってきた。いま住んでいる場所はまあまあ田舎で条件を満たしているといえるが、電車で簡単に大阪に行けてしまう点が味気ない。
日本のどこかの、通信環境のよい山中。仕事は文筆業。朝日と共に目覚め、好きな時間に好きなだけ本を読み、映画を見る。野菜や電気を自給自足。知人が訪ねてくるが一ヶ月に一度の頻度。ひとりが好きな自分には、交通の不便はかえって都合がよい。
山にいると何だか「帰ってきた」気持ちになる。もちろん山中は大雪など災害の心配があるだろうが、そこはそれ。死後は戒名・墓は不要。遺灰は山に蒔いてもらう。
幼きよりわれを誘う詩のありぬ山のあなたに幸い住むと
NHK短歌には「読者はどっちを読む?」という読者のお便りコーナーがあります。その月のテーマに沿った300字程度のエッセイに、それに合う短歌を添えます。
テーマ「海と山」で出したお便りが没ったので、お亡くなりになったお便りをここにアップし弔うことといたします。
若干加筆修正しています。まだ先の話ですが、その際には棺桶に入れて一緒に焼いて欲しい本があります。
1「どくとるマンボウ昆虫記」北杜夫
小学校四年の時に読んだ、本の世界への入り口。さらっとしたユーモアにちょっぴりの悲しみも混じっている、というのが自分の好きな文体なんですけど、たぶん北さんの影響です。もちろん、濃厚なユーモアも好きです。どうしても書きたくない作文を、北さんの文体を真似て何とか提出したら担任に褒められた。書くのって楽しいと初めて思えた。創作の原点となった本でもあります。
2「春の夢」宮本輝
仕事その他で、もうだめだ、色んなことから降りたい、となった際に何度も読み返しました。追い詰められた人間の発する底ぢからは捨てたもんじゃないと、主人公の井領哲之(作者の分身)から受け取りました。
ラストは、幸せをつかみ取ったらそれをもたらしたものは、何でもないよあんたがたの努力さ~というふうに消えてゆく、そういうことなのかなと思います。後半に、主人公たちの未来は順風満帆ではないと示唆する描写があり、そのリアルさもいい。
1,2は鉄板で、あとは色々変動しますが、最近これに3が加わりました。
3「これから詩を読み、書くひとのための詩の教室」松下育男
詩のみならず創作全般にたいして私の言いたいこと、考えてることのほとんどが詰まっています。人生全般、といってもいいかもしれません。おこがましい言い方かもしれませんが、著者はなんで私の気持ちがわかるのかと。え、え、すごい、と驚嘆しながら、429ページある分厚い本なのですが一気に読みました。