掌の小説 | 川端康成
最高におもしろい本をみつけた。
北海道旅行の帰りは読書をする前提であえての新幹線。旅のお供は何にしようとウキウキワクワク悩みに悩んで、掌編小説を手にとった。初めての川端康成。
バリエーション豊かな122編。どこかで聞いた「文豪の一筆書き」が決め手となる。
ひそかに楽しみにしていた青函トンネルは気付いたら通り過ぎていて、在来線に乗り換えても吊り革を諦めてページをめくる。腕にくいこむお土産袋。
よかった。
すごく、よかった。
一つの作品はほぼ3,4ページで終わるものばかり。こんなに短いのに圧倒的な余韻。そのまま置いていけなくて二度三度読み返してじっくりちびちび味わう。
まるで髑髏万博先生のインスタントフィクションの詰め合わせ。謎解きのような味わいがクセになる。
あとエロい。
エロいわぁと何度も苦笑い。
そうだ。
作品をひとつ決めてお酒を片手に考察するのはどうだろう。呑みながらあーでもないこーでもないと読み解いて遊ぶのはだいぶ愉快ではなかろうか。
今回のはうまく着地できなかったな、とお流れになるのもまた一興。「文豪に完敗」とか言って。
■私のベスト5■
【骨拾い】p11.
『谷には池が二つあった。下の池は銀を焼き溶かして湛えたように光っているのに、上の池はひっそり山影を沈めて死のような緑が深い。』
この書き出しで購入を決めた。
【心中】p148.
うっかり青函トンネルを通過してしまった諸悪の根源。2ページちょっとしかないのにしっかりミステリー。
【朝の爪】p201.
なんなら1行ごとに話したいことがある。特に最後の一文『彼女は忘れていた足の長い爪を無心に切りはじめた』についていつかどこかで語りたい。
【化粧の天使達・花】p395.
掌編どころかたったの5行。
『別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます』
この破壊力たるや。
誰が、誰に、誰と話しているかを考えるだけで映像化したら3パターンはできそう。
【落日】p73.
インスタントフィクション味100%。現在過去未来が一直線上にあって交わる。万博先生の切れ味のいい解釈を聞きたい。つまり意味不明すぎてお手上げ。だけど宝がありそうな匂いだけはプンプンする。
※文庫には「てのひら」とルビされているが、川端康成本人は「たなごころ」とよんでいたそうだ。