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読書感想文

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最近の記事

山頭火句集【700句・イラスト付】|久永堂書店編|夏の部

とっくにというか、いつからというか、夏が始まっていた2024。 麻婆豆腐定食を待ちながら山頭火。 折れた桜の枝を蜘蛛の巣取り棒にしている我が家。破っても破ってもすぐ張られるのだけど、朝露を纏ってキラキラ浮かび上がる模様はレースのように美しい。 それはそれとしてなんで歩くところに張るのかな、と今日も桜の枝でくるくる巻き取る。 蝉の声が被さって追い立てられているよう。ひらがなだけだとくぎりがあいまいになってますますかなかなかなかな。 実家のメンツはここ数年で若干のメンバーチ

    • 掌の小説|紅梅|川端康成

      【居酒屋たなごころ】 お題 ー 川端康成『紅梅』(掌の小説より) ※お題を肴にあーでもないこーでもないと読み解くお遊びです。 ※ネタバレしておりますし、シンミリもしてます。 どこの家でも繰り広げられるだろう年を重ねた両親の言い争い。なごやかに思い出話をしていたはずなのに、いつの間にかお互いの思い違いを指摘し合って空気がピリつく。 我が家も父はロマンチスト、母はリアリスト。「そうだっけ?」とぴんときていない母に「覚えてないのか?」と不満顔になる父の構図はいつものこと。

      • 掌の小説 | 心中 | 川端康成

        【居酒屋たなごころ】 お題 ー 川端康成『心中』(掌の小説より) ※お題を肴にあーでもないこーでもないと読み解くお遊びです。名探偵を気取っています。 ※激しくネタバレしておりますし、推理が大ハズレの可能性も大です。 たった2ページと2行の世界。 心霊的・神秘的と評されておりますが、本当にそうだろうか。 どの角度から覗いたらクリアな景色が見えるのか、ぐるぐる考える。 私はこれをミステリーの角度でみようと思う。信頼できない語り手による叙述トリックだと仮定する。 こんな手紙が

        • 掌の小説 | 朝の爪 | 川端康成

          【居酒屋たなごころ】 お題 ー 川端康成『朝の爪』(掌の小説より) ※お題を肴にあーでもないこーでもないと読み解くお遊びです。迸る愛でグダグダくだを巻いています。 ※完全にネタバレしておりますし、思い込み強めなのでご注意ください。 掌編小説のあらすじってほぼ本編になってしまうことに気付いて地味に困る。 それにしても意味不明でしょう。唐突に足の爪を切るって。私も一読して「わけわからん」と放り出しそうになったけれども、なぜだろう、わかりたいと思ってしまった。 「わけわから

        山頭火句集【700句・イラスト付】|久永堂書店編|夏の部

          掌の小説 | 川端康成

          最高におもしろい本をみつけた。 北海道旅行の帰りは読書をする前提であえての新幹線。旅のお供は何にしようとウキウキワクワク悩みに悩んで、掌編小説を手にとった。初めての川端康成。 バリエーション豊かな122編。どこかで聞いた「文豪の一筆書き」が決め手となる。 ひそかに楽しみにしていた青函トンネルは気付いたら通り過ぎていて、在来線に乗り換えても吊り革を諦めてページをめくる。腕にくいこむお土産袋。 よかった。 すごく、よかった。 一つの作品はほぼ3,4ページで終わるものばかり

          掌の小説 | 川端康成

          星の王子さま|サン=テグジュペリ

          星の王子さまはいくつもの出版社から出ているけれど、キラキラ箔押しの新潮文庫が一番好き。 読んだのはずいぶん前だが、ふと気になって再読。 6つの星とかヘビとかキツネとか当時はわけわからんと斜め読みしたのに。沁みる。沁みてくる。 あの頃は私もきっと王子さまに「おとなって変だ」と思われてたんだろうな。 はかないものは目の前から消えてしまうのよ。そういうものこそ書き留めないと人は忘れてしまう。 「もう一度、バラたちに会いに行ってごらん。きみのバラが、この世に一輪だけだってこと

          星の王子さま|サン=テグジュペリ

          ヘッセの読書術|ヘルマン・ヘッセ

          ヘッセはずっと「自己を見つめよ」と説く。 『ロゴスと巻貝(小津夜景)』でこの詩に出会い、『デミアン』『シッダールタ』を経てやっとここに戻ってきた。 再びこの詩と向き合う。 はじめて出会ったときと違うのは「きみ自身」の言葉の重み。 この重さを重さとして感じさせずに、変わらず優しい。 作者や書物に盲目的になってはいけない。 書物はあくまで出発点であり、刺激となるものである。 世界を解釈してもらうために読むのではない。 自分で解釈するのだ。 教養のためなどではなく、たわむれるの

          ヘッセの読書術|ヘルマン・ヘッセ

          流浪の月|凪良ゆう

          これは叫びだ。 ずっとずっと叫んでいる。 「小児性愛者」と偽ったほうがまだ生きられると思った文。 彼は沈黙を選んだ。 当事者ではない世間が、家族でさえ、どれだけ叫んでも二人の声は届かなかった。 自分とは遠い人の話だとなぜ思うのか。 自分の隣にいるこの優しい人がそうなのかもしれないのに。 ならせめて、自分がその人と接してきてどう感じていたのかを信じてほしい。 それだけが真実だと小さな梨花ちゃんがまっすぐに向ける気持ちのように。 知らない人のことは、口を出すべきではない。

          流浪の月|凪良ゆう

          ロゴスと巻貝|トークイベント

          『ロゴスと巻貝』刊行記念イベント。 どうやら私は哲学を学んでいる方のお話が好きらしい。 自分にはない角度からの目線がおもしろい。 それに加えてゆったりとしたトーン、ロジカルな思考、中立的な立ち位置。 考えて話す間、反射的に受け答えしないところなど、御三方とも共通してとても好ましい。 個人的メモのごくごく一部。 カウンセリングのような、私にとっての大事な言葉はしまっておく。 うれしい気持ちを爆発させてこんなキモい読み方をしていたが。↓ スマホは早々に手離して、英語の歌を

          ロゴスと巻貝|トークイベント

          ポエトリー・ドッグス|斉藤 倫

          「このバーでは、詩を、お出ししているのです」 いぬのマスターのおまかせで31篇の詩が酔わせてくれる。 途中から予感はしていた。 これはまずい。 涙があふれて困る。 これはよくない。 もふもふのおててで出されるお酒で私も酔いたい。 おじいちゃんになっていくきみは本当にかわいかったよって。 あーってため息をついた女性は、まるで私。

          ポエトリー・ドッグス|斉藤 倫

          何故エリーズは語らなかったのか? |森博嗣

          W及びWWシリーズは、ずっと人間の定理を問いかけている。 はじめはウォーカロンと人間の違いはなにか。 ヴァーチャルやAIが日常になり、人工臓器や人工細胞の入れ替えでとんでもなく長生きができる世界を描くことで、人間とはなにか、心とはなにか、生きるとはなにかをこちらに問い続けている。 森博嗣作品は哲学だ。 私が死ぬときはきれいに後始末をしてこの世を去りたい。 子孫がいないから、夫が死んだら私の家族は終了する。 家も財産もお墓も社会との繋がりも、きれいさっぱり畳んでなにひとつ残さ

          何故エリーズは語らなかったのか? |森博嗣

          百年と一日|柴崎友香

          あぁ、と顔をあげた。 私がうっすら持ち続けている形にならない関係性が、この一篇に書いてあった。 学籍番号の前後というだけで学生時代を共にした私と友人は、あれだけ密に過ごしたのに社会人になって徐々に希薄になって、結婚するから引っ越すという前夜もあっさり別れて、その後は年賀状一枚の関係。 その年賀状も、一言メッセージすらなにもない素っ気ないもの。 いつ切れてもおかしくない薄い線でかろうじて繋がっているけど、仮に途絶えたとしてもまあそれはそれでという関係。 けれど、どこかで偶然す

          百年と一日|柴崎友香

          シッダールタ|ヘルマン・ヘッセ

          ヘッセに夢中です。 (どの口が) デミアンのおかげで、ヘッセ文体と内なる声を求めてやまない癖に免疫がついた。 噂に違わぬ名言のオンパレード。 並行して『ヘッセ 人生の言葉』も読み、浴びるように享受する。 言葉に囚われるな、過度にありがたがるな、と諭されるのだけれども。 刺さる言葉がありすぎる。 イメージが飛び込んできたものをピックアップしてみる。 <「思ったことの半分も言えない」よりも「言っていることの半分も思っていない」の方が圧倒的多数> といったのは森博嗣。 もっと

          シッダールタ|ヘルマン・ヘッセ

          鳥肌が|穂村弘

          ブツブツした装丁の手触りに鳥肌が。 小学低学年くらいの頃、近所の友達のおうちに遊びに行った。 友達の小さな弟くんをおんぶしたとき「小さくて軽くておもちゃみたい」と思った。 そのままジェットコースターのように上下に加速度をつけて強めに部屋を走り回った。 その子はキャッキャしていたが、私は隣の部屋にいるであろう大人の気配をちょっと気にしていた。 私の力加減ひとつでどうにでもできるというフラグ。 こんな残酷な気持ち、私だけかと思った。 何十年も沈めていた記憶がすうっと浮上して、空

          鳥肌が|穂村弘

          石垣りん詩集 表札|石垣りん

          自分の住むところには 自分で表札を出すにかぎる。 石垣りんとの出会い。 家族が悩んでいるときだった。 今いる場所に苦しんでいるときだった。 その場所にかかっている表札に苦しんでいるように私にはみえた。

          石垣りん詩集 表札|石垣りん

          夜を乗り越える|又吉直樹

          文豪の作品を少しずつ読むようになったのはここ数年のこと。 だから今が良きタイミングだった。 純文学は感想文を書かせたら刺さるところがみんなバラバラになる、とどこかで聞いて震えた。 同じ人でも年齢で異なる。 だから一冊の本を生涯大事に持つことができるのか。 作品を風呂敷だとして、広げた風呂敷の模様が美しかった、そんな感想でもいいのだ。 私にとって宮沢賢治の作品は「はぁぁぁ美しい……」と抱きしめるものだが、何年か経ったら違う感情を抱くのかもしれない。 今からすごく楽しみだ。

          夜を乗り越える|又吉直樹