流浪の月|凪良ゆう
これは叫びだ。
ずっとずっと叫んでいる。
「小児性愛者」と偽ったほうがまだ生きられると思った文。
彼は沈黙を選んだ。
当事者ではない世間が、家族でさえ、どれだけ叫んでも二人の声は届かなかった。
自分とは遠い人の話だとなぜ思うのか。
自分の隣にいるこの優しい人がそうなのかもしれないのに。
ならせめて、自分がその人と接してきてどう感じていたのかを信じてほしい。
それだけが真実だと小さな梨花ちゃんがまっすぐに向ける気持ちのように。
知らない人のことは、口を出すべきではない。
更紗にとっては文が、文にとっては更紗が、重く暗い深海の底から手をひいて酸素を吸わせてくれた人。
お互いがかけがえのない人。
それを洗脳だとか恋愛感情だとか世間はいいたがるけど。
命綱は目にみえない。
その命綱を勝手な善意や親切心で断ち切ろうとするのは罪ではないのか。