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流浪の月|凪良ゆう

「…もう、自由にしてください」

三章 彼女のはなし II

これは叫びだ。
ずっとずっと叫んでいる。

当たり前のように見続けてきたパズルが砕けて、すべてのピースが飛び散って、まったく別の絵柄へと組み合わさっていく。

三章 彼女のはなし II

「小児性愛者」と偽ったほうがまだ生きられると思った文。
彼は沈黙を選んだ。

当事者ではない世間が、家族でさえ、どれだけ叫んでも二人の声は届かなかった。
自分とは遠い人の話だとなぜ思うのか。
自分の隣にいるこの優しい人がそうなのかもしれないのに。
ならせめて、自分がその人と接してきてどう感じていたのかを信じてほしい。
それだけが真実だと小さな梨花ちゃんがまっすぐに向ける気持ちのように。

知らない人のことは、口を出すべきではない。

「彼が本当に悪だったのかどうかは、彼と彼女にしかわからない」

五章 彼女のはなし III

更紗にとっては文が、文にとっては更紗が、重く暗い深海の底から手をひいて酸素を吸わせてくれた人。
お互いがかけがえのない人。
それを洗脳だとか恋愛感情だとか世間はいいたがるけど。

かならずしも「命綱」は「赤い糸」である必要はない(略)

解説 吉田大助

命綱は目にみえない。
その命綱を勝手な善意や親切心で断ち切ろうとするのは罪ではないのか。

わたしたちはおかしいのだろうか。
その判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。
わたしたちは、もうそこにはいないので。

五章 彼女のはなし Ⅲ