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何故エリーズは語らなかったのか? /森博嗣

「神様を信じているのですか?」
「もちろんです」
「いつ頃からでしょうか?」
「生まれたときからです」

第2章 究極の矛盾

W及びWWシリーズは、ずっと人間の定理を問いかけている。
はじめはウォーカロンと人間の違いはなにか。
ヴァーチャルやAIが日常になり、人工臓器や人工細胞の入れ替えでとんでもなく長生きができる世界を描くことで、人間とはなにか、心とはなにか、生きるとはなにかをこちらに問い続けている。
森博嗣作品は哲学だ。

まるで自分の存在を消し去るようなデータ改竄は、何が目的なのだろうか?

第3章 究極の捏造

私が死ぬときはきれいに後始末をしてこの世を去りたい。
子孫がいないから、夫が死んだら私の家族は終了する。
家も財産もお墓も社会との繋がりも、きれいさっぱり畳んでなにひとつ残さず、この身ひとつで人生を終えたい。
それが私にとってもっとも美しい去り方。
だが、過去の全ての痕跡をなかったことにしたいかというと、それは少し違う。

『百年と一日』を思う。
私と、私に関わる人たちとの営みが、映画のフィルムのようにパタパタパタパタとコマ送りされる。
長い年月の中で、昔この場所にいた人、こんなことがあったのよ、なんて名前だったっけ、と少しずつ記憶から消えていく。
そんな緩やかな忘却が理想なのかもしれない。
まるで土に還るような。

ふとしたきっかけで思い出を語るかどうかが人間とAIの違いなのではないだろうか。
ふととかきっかけとか思い出とか、とても人間くさい。
こんなにぎやかなお葬式、自分のときはなくなっているだろうな。

エリーズ・ギャロワ博士が会いたがっていた理由は何だったのだろう。
意見を交わしたかった?
哲学したかった?
何故エリーズは語らなかったのか。

もしかして、これもあの子の悪戯イタズラだったのかも。
あのオーロラお姉ちゃんもアミラお姉ちゃんもクラリスお姉ちゃんも、まんまと騙されたのだとしたら。
神は恐ろしい子を創りあげて、消えた。

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