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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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2017年5月の記事一覧

崔実(チェ・シル) 『ジニのパズル』

★★☆☆☆

 第59回群像新人賞を受賞した小説。在日朝鮮人である少女ジニの物語。短く章分けされた構成といい、癖のない文体といい、読みやすかったです。
 ただし、新人賞の作品だけあって、どことなくまとまりに欠けている印象は拭えません。カート・ヴォネガットやブローディガン、村上春樹の『風の歌を聴け』や高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』を思わせる断片的構成なのだけれど、上記の作品とは異なり、その

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アリス・マンロー 『木星の月』

★★★☆☆

 アリス・マンローの最初に刊行された短篇集。11篇収録。どれも1980年前後に発表されたものだそうです。

 いくぶん粗いところも見受けられるけれど、アリス・マンローらしさはすでにできあがっている印象。文体も視座も確立されています。もっと後の作品と比べると、洗練されていないところはありますが(あたりまえの話)、作品の質は高いです。

『ターキー・シーズン』の全篇に溢れる郷愁感と、カラ

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コリン・ウィルソン 『宇宙ヴァンパイアー』

★★☆☆☆

 70年代に一世を風靡したというコリン・ウィルソンの小説。
 解説によると、著者は評論『アウトサイダー』で一躍名を知らしめたそうな。マルクス主義が席捲していた60年代後の思想シーンの一端を担ったそうですが、いまひとつピンと来ません。そう言われても現在では、「はあ、そうなんですか……」と寝起きのようなリアクションしかとれません。

 そういった文脈込みで読むと、また違った受け取り方がで

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アリス・マンロー 『小説のように』

★★★★☆

「短篇の女王」と誉れ高いアリス・マンローの短篇集。10篇収録。2009年にカナダと英国で刊行されたものなので、ノーベル賞受賞前のものになります(ノーベル賞は2013年に受賞)。

「現代のチェーホフ」と評されるとおり、雰囲気と読後感に似たものを感じます。短篇というフォーマットの中でどこまでも深い広がりを見せる力量は他に類をみません。

 短篇となると、少ないエピソードや短い時間をさっ

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村上春樹 『騎士団長殺し』第1部・第2部

★★★☆☆

 話題になってはいたけれど、内容はまるで知らずに読みました。タイトルから察するに、中世を舞台にしているのかしらん、と思っていたら、ふつうに現代の日本でした。

 相変わらず、文章の読みやすさは群を抜いています。相当にややこしい内容であっても、小気味よくすらすらと読めてしまう(理解できているかはともかくとして)。まるでわんこそばのよう。副題に「イデア」とか「メタファー」とあっても売れる

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