村上春樹 『騎士団長殺し』第1部・第2部

★★★☆☆

 話題になってはいたけれど、内容はまるで知らずに読みました。タイトルから察するに、中世を舞台にしているのかしらん、と思っていたら、ふつうに現代の日本でした。

 相変わらず、文章の読みやすさは群を抜いています。相当にややこしい内容であっても、小気味よくすらすらと読めてしまう(理解できているかはともかくとして)。まるでわんこそばのよう。副題に「イデア」とか「メタファー」とあっても売れるなんて村上春樹くらいでしょう(イデアと聞いて、「はいはい、イデアね」とわかる人ってどれくらいいるでしょうか?)。

 たしかにさらさらと面白く読めたのだけれど、それ以上でもそれ以下でもない読後感でした。読んでる最中は引きがあり、ページをめくる手は止まらない。でも読み終えると、「はて、面白かったのだろうか?(満足してるのだろうか?)という煮え切らない気持ちが残りました。懐石料理を食べたあとのように。

 原因の一端は、展開やモチーフが村上春樹作品のサンプリングだからでしょうか。正直いって、「ああ、またこうなるのか……」と思った箇所は片手では数えきれなかったです。AIがもう少し進化したら、プロットくらいは作れてしまいそうな気がするくらい。

 疑問に思うのは、村上春樹自身は同じような小説を書いていて飽きないのだろうか?ということです。どうせなら、もう少しべつの種類の小説を書いてみたらよいのに、と思ってしまいます(余計なお世話も甚だしいけれど)。

 インタビューによると、プロットも下調べもなしに自由に書いていくのが春樹流らしいが、一度でいいから不自由に書いてくれないでしょうか。不自由というのは、史実を基にしたり、自分の内面から出てくるものではなく、外側にあるものを基点にするという意味です。
 たとえば、アンソニー・ドーアの『すべての見えない光』のように、訪問した外国の街の背景にインスパイアされて書く、なんてことがあると、新しい作風が生まれそうなのだけれど。
 そうすると、リアリズムの小説になる可能性が高いので、まずやらないでしょうね(『ノルウェイの森』でリアリズムの小説は書いたので、そういうのはもうやらない、と言っていましたから)。

※このあたりの疑問と要望に関しては、『みみずくは黄昏に飛びたつ』で答えていました。やはり、村上春樹の書きたい小説とは相容れないようですね。

 とはいえ、がっつり翻訳をしている方なので、村上春樹の文体で村上春樹っぽくない作風を楽しむのは可能です(余談ですが、私は村上春樹の小説よりは村上春樹が翻訳した小説の方が好きなものが多いです)。

 第3部が出るのかはわからないけれど、『1Q84』と違い、ここで終わってもよいと思います。あるとしたら、内容は過去篇ですかねえ。

 しかし、試しに★をつけてはみたものの、3つばっかりだなあ……。


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