消える命と無言のメッセージ
5月12日、東京都大田区で中学1年生の男子生徒が自宅の14階建てマンションの自宅のベランダから飛び降死亡する事件があった。
詳細はまだ不明だが、警察は自殺として見て捜査を進めている。
実はこのところ、中学生が自ら命を絶つ事件が続いている。
5月9日には東京都品川区で女子生徒2人が駅のホームから飛び降りて自殺。
そして、つい先日の5月30日には市立秋田西中の3年の女子生徒が川に飛び込んで死亡している。
中学生が自殺するニュースは過去にもあったが、これほど連続して起こるのはめったにない。
いったい彼らには何があったのだろうか。
報道されない事件の裏側
中学生が自殺するというショッキングなニュースが報道される一方で、彼らが自殺した原因についはほとんど報道されていない。
まず大田区の中学1年生の男子生徒については、自殺かどうかさえはっきりしていない。
分かっているのは、生徒がその日通常通り学校に登校し、持ち込みが禁止されている菓子を隠し持っていたとして、複数の教員から注意を受けていたという事実のみ。
警察はその学校関係者らから話を聞くなどして、詳しい経緯を調べているようだが、まだ何も報道されていない。
次に、東京都品川区の女子生徒たちのケースでは、自殺と判明しているものの、詳しい原因などは何も分かっていない。
はっきりしているのは、生徒が残したメモに「死にたい」などと書かれていたことのみ。
2人がともに人間関係の悩みを抱えていたということは推測できるが、そのメモが公開されていないため、何に対して悩んでいたのか具体的には分からないようになっている。
市立秋田西中の3年の女子生徒のケースでは、自殺かどうかは判明していない。
分かっているのは、1時間目の家庭科の授業が始まって約15分後、「おなかが痛いのでトイレに行きたい」と言って教室を出たまま行方不明になったという事実のみ。
おそらく自殺だろうが、秋田中央署では「報道発表の予定はない」として報道機関に対して情報を公開していない。
増加し続ける若年層の自殺
内閣府が作成した年齢階級別の自殺者数を調査した資料では、未成年の自殺者数は平成17年以降年間500~600人で推移し、それほど増えていないように見える。
しかし、死因別では若い世代の自殺の割合が高く、平成25年の「15~19歳」の死因の1位は自殺で455人となっている。
また、警察庁の資料に基づいた統計資料からは、中学生の自殺による死亡が100件を超え(2015年)、自殺死亡率(10万人あたりの自殺死亡者数)も年々上昇していることが分かっている。
非常に興味深いのは、こうした事実もまた広く世間に報道されることがないということだ。
私たちが知り得る情報は、すでに起こってしまった事件についての、ごく断片的なものだけに限られている。
残された無言のメッセージ
自殺する中学生には何らかの原因があって自ら命を絶っている。
いじめや人間関係、両親との不和など、さまざまな原因が考えられ、実際にその事実が明るみになることもある。
だが、命を絶った本人からのメッセージはあまりにも少ない。
そして、仮に残されたとしてもそれが世間に広く公表されることはほとんどない。
もちろん、「いじめ」の事実や「人間関係の悩み」など表面的な情報は提供される。
事件後の報道では、そのことが取り上げられてさまざまな意見が飛び交うこともある。
だがしかし、自殺した当人の内面的な部分は全く不明のままだ。
彼らはいったい何に対して怒り、悩み、苦しんでいたのだろうか。
私たちは残された無数のメッセージから何も読み取れないことに愕然とする。
そして手を差しのべたくても、遠く隔絶された世界に住む彼らに何もできないことを知って呆然とする。
私たちに今できることは何だろうか。
あまりにも遠い場所で、今このときにも消えゆこうとしている命のためにできることとは?
新たな無言のメッセージが発せられる前に、私たちは自らに問いかけ続ける必要がある。
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学校リスク研究所 内田良2016年05月05日 09:30「逃げる」という選択肢 中学生の自殺 17年ぶりの年間100件超に向き合う
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