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#読書感想 「スター」 朝井リョウ

映画と動画について

先日、御嶽山へハイキングに行きました。

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梅雨の合間の木漏れ日が、それはそれは美しく、まるでスポットライトのように鮮やかな緑を照らしていたので、思わず「これをとっておきたい!」とスマホで写真を撮りました。

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・・・あれ・・・木漏れ日が全然撮れていない・・・あんなにハッキリ光っていたのに・・・!

私の撮影技術のなさも原因の一つかもしれませんが、あ、いい、この瞬間撮りたい!とグッときたものはスマホではほぼ撮れないのです、全てにピントがあってしまい、ペタンとした2次元に落とし込まれてしまうのです。

スマホでモノを撮るときはすごくピントが合いやすく、上記のような記念写真はきれいに撮れるのですが、この光を撮りたい!この空気感を撮りたい!は難しい。


朝井リョウ「スター」、若い映画監督の卵、尚吾・絋、二人の主人公。細部にまでこだわったクオリティの高い映画と、日々量産されるYoutube動画の間で悩みながら自分なりの答えをつかみ取っていく物語です。

朝井リョウさんは、若い小説家の中でとても好きな作家です。物語の中の一つ一つのエピソードが丁度良いサイズと熱量で、自分の胸に空いたなんとなくの隙間に、パチリと収まってくれる。わかるはずのないものを「わかる」と思わせてくれる。「桐島、部活辞めるってよ」も「何者」も、自分とは年代も環境もまるでかけ離れた若者の心情が、ヒリヒリと伝わってきました、痛いほどに。

映画と動画、対立しているかのような表現の手法。

納得いくまでたっぷりと時間をかけて作り上げた渾身の作品である映画。

収益を上げるため、ファンを喜ばせるために短い制作期間で量産する動画。

どちらが正しいとか劣っているか、とかではなく。

インターネット・SNSが普及して、ものを作る人には良い環境になったと言えるけど、さて自分はこの海をどう泳いでいくか・・・

二人の葛藤が、繊細に描かれています。大学のサークル時代から、卒業した後の身の置き場、周りの人々との関係・・・まるで自分が小さくなって主人公の肩に乗って、同じ視界・同じ脳みそを共有してるかのように間近に感じられる。それはそれはスリリングです。

私がスマホで撮った画像には撮りたかった木漏れ日は全く写っていないけど、SNSにあげれば多分「イイネ!」してもらえるでしょう。でも、私の作品にはならないわけです、なぜって私がグッときた木漏れ日が撮れていない。

しかしながら私が木漏れ日に拘ってもSNSで見てくれる人には伝わらない。気軽に、ハイキングで出会ったきれいな風景を見せてくれれば、イイネ!です。それはそれで素敵なことです。

受け手側はどちらも違うものとして楽しめばいい。

作り手側も違うものとして棲み分けできていけばいいでしょう。

そこに過程はあって、きっとこの物語の中にあるような葛藤が、現在進行中なのは容易に想像できます。

映画制作は厳しい環境になっていますが、しぶとくそのクオリティを保ったまま存続していく、いって欲しい。だってやっぱり光や空気をスマホで撮るのは難しいのですから。

作り手が全てにこだわって作り上げた渾身の映像作品は、これからも私が、誰もがみたいものですから。




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