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転職で収入増の人が増える時代の意味。

終身雇用という言葉はすっかり死語になりましたが、日本では転職にプラスイメージを持つ人がまだまだ少なく、「石の上にも3年」的な発想を抱く空気感が根強いと思われてきました。

大学を出てそれなりのネームバリューのある企業に就職したら安泰、とまでは言わないにしても、まずはみんなと同じようにサラリーマンを経験してその後のキャリアと向き合っていきたいと考える人が多かったのは間違いないでしょう。

でも、そんな時代は、確実に変わり始めました。



先日、リクルートが発表した「転職時の賃金変動状況」の最新調査では、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は32.6%であり、過去最高値を更新しました(2022年5月6日発表、「2022年1−3月期 転職時の賃金変動状況」)。

「転職時の賃金変動状況」では、“転職者の賃金は転職前後でどのように変化しているのか”という点に着目して「前職と比べて賃金が1 割以上増加した転職者の割合を発表していますが、明らかなトレンドの変化ということができます。

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増加が顕著なのは、接客・販売・店⻑・コールセンター(38.8%)、IT 系エンジニア(36.0%)、営業職(31.8%)、事務系専門職(30.0%)、機械・電気・化学エンジニア(28.3%)などとされています。

コロナ禍が始まった 2020 年 1-3 月期以降、大きく低下したものの、翌年には感染拡大前の水準に復活し、 2022 年 1-3 月期には過去最高値を更新していますが(2002 年 4-6 月期以降の最高値)、この傾向は今後も続くと見られます。

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人事の現場でも、コロナ禍の中において退職者の増加に頭を悩ます例が増えており、ただ単に「最近の若者は~」という紋切れ型の評価で片づけるような状況ではなく、現実の市場価値に照らして適正賃金を支払わなければ労働力を維持・確保できない時代だといえます。

決して好況といえない時流の中で、転職によって収入を増加させる例が増えていることは、おそらくは一時的な統計値の綾というよりは、私たちのライフスタイルを取り巻く環境やマインドが変容しつつあることの投影だといえるように思います。

日本において終身雇用モデル自体は昭和の遺物とはいえ、その骨組みは平成を経て令和になっても幾ばくか底流に流れ、多くの人々の働き方・生き方に影響を与えてきました。

だからこそ、国が女性活躍推進を打ち上げつつも「男は仕事、女は家庭」という役割意識が簡単には変化することはなく、実態として多くの女性が担うケア労働を背景に、男性を「一家の大黒柱」とする家計維持のモデルが根本から崩れることはありませんでした。

新卒一括採用で就職したり、20代で転職した会社でキャリアを構築すれば少なくとも収入が低減することはなく、逆に不用意に転職してもキャリアアップや収入増が見込めないという“常識”は、いま脆くも崩れつつあるようにも見えます。



転職によって収入が増加する人が増える時代の本当の意味。それは、従来型の性別役割分担のモデルが音を立てて崩れることにあると思います。

転職によるリスクが大きかったことが、男性の基幹労働者のリテンションを高めることに貢献し、逆にライフイベントによって退職を余儀なくされた女性労働者の職場復帰や正規化を阻む要素になりました。

そもそも日本においていわゆる“専業主婦”は前近代から存在した役割ではなく、主に国の社会経済政策によって誘導・浸透してきたことが知られます。社会保障制度や税制のありようが、現実に性別役割分担を強力に後押ししてきたといえます。

そして、一度就職した会社には長く務めるのが社会人の責任であり、安易に転職しても経済的・社会的に報われることはない、といった風潮がさらに強固に男性と女性のライフスタイルを既定してきました。

転職自体のネガティブなイメージはなくなりつつある時代、実際に転職によって収入増が期待できる姿が一定にリアリティを持ち出した意味は、きわめて大きいと思います。

この流れは、暮らしや働き方における男性と女性との間に立ちはだかる壁の意味を根本から揺るがし、従来の役割分担を超えた新たなライフスタイルを目指すモデルへと、確実に移行していく序曲の始まりだといえる気がします。

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学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。