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中村文則さん『銃』読書感想

この小説は人間の暗い部分をひきずりだして書いている作品ですね。もともと本屋でたまたま見つけて読んだ中村さんのエッセイ集『自由思考』を読み、その本が面白く、著作も読んでみようと思い、『銃』を読んでみました。この作品は中村さんのデビュー作だそうです。

感想というよりは、どういうテクニックを使って小説世界にひきずりこんでいるのかということを、著者のエッセイをもとに、考えてみたいと思います。ネタバレ含みます。

エッセイを読んで分かるのですが、中村さんはなんかこう、まっすぐな方だなと思いました。感情や世間の物事に対し、0か100かの真っすぐな言葉を使っている部分が多い印象です。

本屋でこのエッセイをぱらぱらっと読んだ時も、森友学園関連など政治問題にも言及しているのも興味深く、エッセイを買って読んでみたのですが、その中で芥川賞の言及がありました。この方は『土の中の子供』で芥川賞をとっていました。芥川賞とったものは何冊か読んでいるのですが、私は中村さんを知らなかったので、まだまだ読めていない事を再確認しました。これから自分好みの文章に出会える可能性が増えるので、知らない作家さんがいるのは楽しいです。

『銃』は、道に落ちていた銃をたまたま手に入れた主人公が、銃を使用していくまでの意識の流れを中心に描いた、暗い思考に染まっていく話です。著者のエッセイに書かれている考察を絡め、書いていきたいと思います。

暗い思考に染まっていくことを表す描写のテクニックとして、

まず、銃との関係が一つの人格になったように思えた、というような、銃との関係自体を擬人化しています。ものを擬人化する描き方はよくありますし、物語の前半でも出てくるのですが、銃との「関係そのもの」が性格を持ったように思える奇妙さを描き出しています。人は、分からないものに恐怖を感じるように脳が設計されており、そこをうまくついた描き方なのだと思います。

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また、銃を持つことで主人公が変わっていくことについて、体や意識の変化を具体的に書いています。道尾秀介の『月と蟹』なんかもそうですよね。主人公を暗い考えが支配していく過程を、体や意識の変化を通し具体的に書くことで、読者に自分のこととして読んでもらうように持って行っています。『銃』では『(銃を)撃たずにその感触だけを楽しむのは、もう私には難しいことになっていた』『私の理性の中に入り込んでいた』と書いてあり、『月と蟹』では『何かがじりじりと自分を包囲していくのを、感じていた』『自分の身体が(中略)自分のものではないみたいで、いまなら蚊柱の中で深呼吸さえできそうだった』と書いてあります。こういった変化を忠実に書き、読者をひきずりこんでいっています。


エッセイの方では『銃』をどのように書いたか言及されています。この作品を書いていたときは、金銭的に貧しく、追い詰められていたそうです。近所に汚い川があり、散歩しながら今の暗い自分について考えていたとき、後ろから自転車のベルが鳴り、それは「どいてくれ」という意味であり、それ以上の意味はなくても、その時は「お前がこの世界からどけ」と聞こえたそうです。そこで息が詰まり、男を追いかけようとし、我に返ったそうです。自分がまるでテレビで見る犯罪者のようになっていることに気づいたそうです。『銃』は人間の暗部の細かい心理を、ある意味で自分をモデルに書いたそうです。

ふっと思い出したのですが、わたしも飲んだ後に家に帰るために歩いていると、後ろから自転車がすっと隣を通り、手が伸びてきました。その手が、

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