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稼ぐスタジアム&アリーナを作るには?

みなさま、お久しぶりでございます、あかさとと申します。
今回、9年間所属しておりましたプロスポーツチームを離れることになりましたので、プロスポーツが行われる施設を変える時のはじめの一歩は?それを整理したいと思います。

そして、私の9年間の仕事は基本的に施設戦略を考え、実行することでしたが、直前まで全社基幹システムの更新など全くの未経験分野でしたから、これから書くことは全て我流もいいところです苦笑

0.時間がない人向けサマリー

事業戦略があっての施設なので、表に出てくるフックの煌びやかさではなく、その前提たる部分への理解がとても大切

※そのため、スタジアムは建築家とこう話してとか、行政とはこうやってとか、PMとして何をリスクとして見ていたか?とかそういった具体的な話よりも、繰り返しですが、まずはそこから始めてもらいたいなと感じたので、フォーカスいたしました。更に書籍に記載されるような綺麗な内容ではない、一個人としてのフィルターから物事を書いている前提でご笑覧ください。


1.施設も戦略が必要


1-1.主たるコンテンツをよく知る

『このスタジアムをお客さまの観戦スタイルの変化に合わせて競争力のある場所にして欲しい』

そんなミッションが与えられた時、何をしますか?

視察したり、セミナーに参加したりして、何とかヒントを得ようとするわけです。そして、横文字やそれらしい概念がたくさん並んでいて、とても煌びやかで、焦る訳です笑
さらにすぐそれを取り入れれば一定の効果が見込めそうだ!と、視察した時に感じるというアルアルが。

ただ、施設を変える=お金をかけることになります。
お金をかける以上、いわゆる衝動買いならぬ、衝動的投資というのは、組織で行う場合は、中々成立しにくい状況になります。

つまり、戦略を持って施設にお金をかけていく、この意志を作り説明することが大切になります。そうしないと、判断基準がなくなり、どうしてもアレコレの積み上げとなってチグハグな形を容認することになります。

抜根的な施設整備には多額の費用がかかります。そして、施設を整備した後には収益を上げなければ、維持も成長もできません。そのためには、主たるコンテンツたるチームがとるビジネスマネジメント側の戦略を知ることから始まるのです。


1-2.どこで収益を上げている?

プロスポーツチーム興行では、toC、toBそれぞれキャッシュポイントがあります。
実際にコンサートでもプロスポーツを見た時でも振り返って頂きながら、おさらいしましょう。
興行そのものを見てもらうチケット、来場してからは興行に関係するグッズやお腹を満たす飲食がありますよね?
そして、会場に来るお客さまに向けた広告や販売促進などのスポンサーシップ、その興行を放送したときにお金を払って見る視聴者がいる場合には放映権といった具合ですね。
シーズンシートもありますが、ここはチケットとスポンサーシップの間に位置するイメージでしょうか?高額になればどうしても法人購入が多くなりますし、それを開催日数で割った場合にいくらで販売すべきか?とかポテンシャルがどこまであるのかの見極めもありますよね。(私はそこにタッチしてこなかったので、このバランスとりはすごいなと感じています)

シーズンシートを除くそれぞれのつながりは下のようなイメージになります。

プロスポーツ興行におけるキャッシュポイント

この辺はスポーツビジネスに関する色々な書籍でも紹介されておりますので、興味があればご一読いただけると幸いです。

イメージを見ていただけるとわかるのですが、興行においてまずは「チケット」をどう売るのか?売っているのか?ここを知る事、理解することが主たるコンテンツがとる事業戦略をつかむことに繋がります。


1-3.事業戦略の方向性を捉える

ビジネスマネジメント側の戦略を知ること、何を捉えるか?というと、
主たるコンテンツがどういう環境で、どこに重点を置いた活動をしているのか?を知ることです。

おさらいですが、プロスポーツではチケット動員が全てを潤すという言葉がある通り、まず動員をキーにした売上高拡大活動を知ることとします。

売上高=客数×単価×頻度

この3つの変数による掛け算がある中で、どこが強いのか?
一見さん商売で広げていけるポテンシャルがあるから、客数拡大に注力しているのか?それともリピーター商売で何度も来てもらえるよう頻度を重ねる施策をしているのか?

これによって、目指す状況もそれに必要な施設も異なってくるのです。

客数拡大でいけるポテンシャルがあれば、まずは席数の拡大や確保を優先すべきですし、客数の成長はある程度落ち着いていて来場頻度にシストする場合には飲食も含めた滞在時間の満足度を上げることを考えます。

ただし、国体など主たるコンテンツが一回限りのもので、客席数をって作られた4万人規模のスタジアムを使って欲しいとなった場合は、
そもそもの主たるコンテンツが異なる上に、異なる思想で作られた場所なので、中々そこで戦うのは難しいなぁと見ています。

席数に関しては大は小を兼ねますが、そこで産まれる熱量やそれによる体験は適切なサイズによって産まれるからです。


2.施設を変えることで収益を上げていく


2−1.ファン拡大の支持基盤になる

実際に主たるコンテンツがお客さまに来てもらう戦略の概念や方向性を理解したときに、まず何から考えるでしょうか?

プロスポーツ興行はいうならば「集客ビジネス」の一つです。つまり、来ていただくことで価値が高まるわけですが、1回来たときに見切られてしまったら意味がありません。
季節性の単発でもうやらない。ということであれば良いのですが、プロスポーツ興行は、大抵はリーグ制で何回もその場所で試合が行われるから、1回で見切れられてしまい、「いやぁ、もういいかな」という方がマジョリティになってしまっては困るのです。

一つの整理の仕方として、ファンの支持を強くする要素は3つあると言われています。

①共感 ②愛着 ③信頼

佐藤尚之著「ファンベース」

スタジアムでは置かれている環境でウエイトの置き方は変わるものの、ファンの方に「また来てもいいな」と感じてもらい、②愛着へ効かせていくことを通じて、ファン基盤拡大の舞台装置にならないといけません。

何度も何度も来て満足して、「なんやかんやあるけど、毎回来るたびにいいんだよね」と印象に残ってもらうにはどうしたらいいでしょうか?


2−2.いいところを見つける

スタジアムという場所の最も良いところは何でしょうか?

競技の興奮、演出、熱気、、、
その全ては演者たる主たるコンテンツによる結果です。

そのスタジアムという場所自体の良いところは何でしょうか?

あれがNG、これがNGという部分はパッと思い付きます。

でも、ここのこれがその場所の特徴なんだ!
もしくは、このスタジアムを作るその場所の特徴はコレなんだ!
これを見つけ定義する、もしくはイメージにしていくには、デザイナーも含めた力が必要です。

そのいい部分を中核に、機能面での価値をどうアップグレードしていくのか?その上で、どんな体験をしてどんな気持ちになって欲しいのか?を考えていくことが大切なのではないでしょうか?

機能面での詰め込みをしても、それはそれで美しい場所ができるのですが、そこでなければ産まれない感情は、全て主たるコンテンツが全力投球しなくてはならず、借景という部分での援護射撃が厳しいです。

非常に概念的な話に終始してしまい申し訳ございませんが、ここを具体でというのはご容赦ください。ただし、どのスタジアムの抜根的な改修や新設でも「こういう場所にする」という、その場所の良さへの意思表明はしていますので、ぜひ参考にしてみてください。


2-3.変えていくこと

そうして見つけた良いところと事業戦略を掛け合わせて、何を考えるのか?というフェーズに入ります。

そのスタジアムの良いところを最大限引き出すような場所、例えば観覧車でも良いですし、公園の遊具、サウナでも良いと思います。それと、競技そのものの本質的な楽しみがゆったりとした空間で見ることができる場所

この2つをまずは考えましょう。
つまり、動員数へ寄与する興味を引くフックと、単価で収支を潤すフックを考えるのです

例えば興味を持って頂いたら、じゃあどんな場所の席がありますか?たくさんの特徴や楽しみ方のある中から選べた方が楽しいですよね?
試合途中にも食事やショー、エンタメ、買い物、フォトスポット、試合以外も楽しみがあった方が、じゃあ行ってみようかな?となりませんか?

さらにいわゆる高額席、ホスピタリティができることによって、一番何が良いかというと、社交場的な「いつもの」メンバーが集まる場所に変わりますし、チーム側としてもそこを価値のある場所とすることで、価格の階段を作りやすくなります。

この階段があるというのが、チケットの販売価格にも影響してくるので、とても大事になります。

そうしてこれを変えたら、これが必要というふうに、事業戦略を下敷きに組みあせたり、積み重ねたりしていくことで、そのスタジアムは唯一無二の場所になることができるのです。

唯一無二の場所であるということは、差別化が図られ、結果競争力のある場所というお題も満たすことができるのです。
(唯一無二にこだわり過ぎて、エッジがとんがり過ぎてしまうと、それはそれで難しいですが、、、)

ただ、絶対ではないので、稼働してからも常にアップデートをしていくことで、興味や話題を作り、いつ来ても何かあるよねという印象を持ってもらえます。


3.実際に進めてみて


3-1.自分の役割

と色々と書きましたが、実際に進めている時にはこんな冷静にはなってませんでした笑
メンバーが出探りで色々と模索して形にしたことを後から振り返るとこういう形でも整理できるな、という部分書きながら感じていました。

実際に私が進めたのは、それらのメンバーの思いや言語化できない部分を埋めて、ステークホルダーと折衝し、協力してもらえる環境もそうですし、お金を出して頂いて、その場所の未来を託してもらう、そんな仕事でした。

親会社とも何度もコミュニケーションを取りましたし、親会社の方との翻訳家にもなりました。そうして信頼を積み重ねることで、託してもらうという環境ができるのだと感じています。

そして、自分達で進めようにも、スタジアムには開発、建築、消防、公衆衛生といった、所轄の異なる行政の皆さまにもお力添えを頂かなくては、すぐ行き詰まってしまいます。

そうした皆さまと一緒に建設的に解消していける、そのための相談に乗ってくれる、そんな関係を作ることも大事になります。

更に集まったメンバーの背景や仕事の進め方、段取り、リードタイムの感覚が違うので、コミュニケーションルールを整えること、適時判断をできるポイントを作ること、預ける部分は完全に預けて、時間とお金で整えることをしましたし、

設計会社や施工会社の皆さまにも、何度もこちらのイメージをお伝えして、汲んでもらいましたし、発注をかけるタイミングで、アップするもの、やりくりで収まるものを整理していただき、理解した上で推進することができました。

改修後の施設維持も、ちゃんと当たり前を作って届けることがミッションであると定義し、伝えられる限りにおいて伝えることができました。


3-2.これから挑むみなさまへ

スタジアムやアリーナの新設プロジェクトに、施設の老朽も相まって色々と計画が浮かんで、参画し、夢を載せ、折衝することがあるかもしれません。

私は作ると決まってからの3年ちょいは怒涛の毎日でした。
こんなのできるのか?と、仕事の大きさに慄いたことも沢山ありましたし、
正直何度も何度も「いやぁこれ無理っしょ」と諦めが過ぎる場面もありましたし、
対立する場面もありました。

でも、一緒に進めるメンバーに支えられましたし、
メンバーがここまでしたことを形にするために、もう一回できることはやってみようと自分を動かしていました。

そうして、自分の仕事が段々と少なくなった時、プロジェクトの終わりを感じ、
出来上がった光景とそこで楽しむお客様を見た時には、全てが報われました。

私はこの仕事に勝るものを、いまだに知りません。
困難かつ金額も大きいゆえに、ハンズオンの場合、そう何度も携われるものでもないかと思います。
ですから、全力でやり遂げてみてください。応援しています。

このnoteが少しでも、そんな皆さんの背中を後押しするものになれば幸いです。

最後に私の乱文にお付き合いいただきありがとうございまいした。


参考:過去エントリー


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