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わたしがボーダーの服を着なくなった理由。

 COSのボーダートップスを買おうとして、前夜ベッドの中でオンラインショップを眺め、そして翌日に銀座店で迷いに迷ったあげく、断念した。

 理由は明確。
 「もうボーダーは着まい」と誓った出来事が、いちいち新鮮に思い出されて、わたしがボーダーに手を伸ばすたびに阻んでくるからです。

 約4年前の春、わたしは駅前のドトールコーヒーでアイスコーヒーを飲んでいた。運動会日和なのか、ハット姿の女性が幼稚園児らしき子ども連れで賑やかに入店し、テイクアウトしていく。
 6人くらいいらっしゃったかな。
 最後のひとりがアイスコーヒーを右手に、左手で子どもの手を繋ぎ自動ドアの向こう側に行ったのを見計らったように、レジ前の店員さんが言った。

「ぷっwwwねえ、全員ボーダーwww」
「思ったwwwマジで全員ボーダーwww」

 ウケる、と口々に言い合うと、その話題に飽きたように次のお客さんの対応をした。
 わたしはすぐに自動ドアの向こう側に目をやった。お店の前で、ぎゅうぎゅうの輪になりアイスコーヒーを飲み談笑する女性たちを凝視した。ほんとうだった。

全員ボーダー。

 ボーダーの太さは異なるし、白×黒もいれば白×ネイビーもいる。よく見ると違う。でも、それはそれは異様な迫力をはらんでいた。
 保育園児を持つわたしは危機感を覚えた。
 少しでも気を抜くとあのぎゅうぎゅうの輪に取り込まれ、異様な迫力を放ってしまう人間になるのではないか。

おそろしい。もう絶対にボーダーなんか買うもんか。

 そう決意して視線を自分の上半身に落とすと、思わず「あ!!!!」と声をあげそうになった。

ボーダーじゃん。
夫が無印良品で買ったはいいけれど、1度の洗濯で縮んでしまい、ジェラードンのアタック西本のようにトップスとボトムの隙間からメタボリックなお腹がぽこんと出るようになったからと、わたしが譲り受けたボーダーじゃん。

 反射的に、レジ前の店員さんを見ざるを得なかった。
 お願いします。どうか、わたしがボーダーだってこと、気づかないでください。お願いします、お願いします! お願いします!!!

 岡村靖幸がゲスト出演した5月20日放送「久保みねヒャダこじらせナイト」(フジテレビ系)で、久保ミツロウ先生が岡村ちゃんの荘厳なピアノの調べに乗せ、ポエトリーリーディングさながらに現状を吐露していた。

 曰く、犬の散歩のための服を買いに行きたいけれど、ユニクロは遠くて行きたくない。そうだ、近所のライフには衣料品コーナーがある。そこには、なんだか近頃よく見る、トップスの裾から白い布地がちらちらと出るレイヤード風トップスが売っているではないか! これを着て散歩に出よう。ああ、これでわたしも、年相応に地域に溶け込めた!

 ーーそんな久保ミツロウ先生の心の叫びを聞き、わたしは確信した。「あのときのボーダーが、いまは白布地チラチラレイヤード風トップスなのだ」と。
 おそらく久保ミツロウ先生は、解脱したのだ。ライフサミット2階のコルモピアで白布地チラチラレイヤード風トップスを見た日から、「これは絶対に買ってはいけないものだ」と感じ取っていたわたしは、まだまだ抗いに逆らえないのです。

 ※

 結局COSではリネンのパープルワンピースに一目惚れし、購入に至った。

 数日後、さっそくワンピースに袖を通し、ウキウキ勇んで子どもの小学校の運動会に行く。

あ!!!!

 思わず息を呑む。悪夢、再び。
 目の前にいる、我が子の50メートル走を観戦するお母さん3人組、全員リネンワンピじゃん。
 ホワイトにマスタードに、ミントに。
 図ったように色とりどりで、いまにもインスタで腰を振り出しそうな異様な迫力をはらんでいる。

 もっと後ろにいる人から見ると、わたしも腰振り軍団の一員に見えているのではないか。そう思うと、観戦の層から抜け、校庭の端に逃げ込まずにはいられなかった。

 わたしが怖いのは、パーソナルが埋もれ、迫力ある集団の一員になってしまうこと。それがとても怖くて、抗えど抗えど、結局似たような経済状況や生活圏なんだもん。同じような媒体を参考にして同じような店で買うのだから、自ずとそこにたどり着いてしまうのだ。
 飛び抜けた生活圏を手に入れるために、とびきりのお金持ちになるか。それとも、久保ミツロウ先生のように解脱するか。

 不惑の道は、2択なのかもしれない。

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