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ムンバイの夜に または禅問答

彼とは荻窪の小さなライブハウスにオシのバンドを聞きに行った時の、対バンの2人組のうちのひとりという風に出会った。ライブ後の打ち上げで、なんか一言二言喋ったような喋らないような。DMを送りたいから連絡先を教えてと、住所とメールアドレスを交換したと思う。(その時代は住所は交換可能な個人情報だった。)頭の良さそうな人だなと感じて、サラリーマンが週末余暇的に昔取った杵柄を披露してるんだなと勝手にタグ付けして引き出しにしまっていた。

その後、数回ライブハウスに演奏を聴きにいき、1年間深夜特急沢木耕太郎みたいにバリからパリに旅行します。なんて言う彼を、壮行会で見送ったりもした。結局知ってるのは名前と住所と、歌を歌っていることくらい。

時はしばし流れ半年くらい経った頃か、一通のEメールが知らないアドレスから届く。インターネットカフェのある環境についたと旅先の彼からの手紙だった。旅の話でしばらく往復書簡、次の旅行地はインドだと言う。私はインドへはまだ行ったことがなく、インドを見ずに死ねないと思っているなんて話をしたら、じゃあ、次の夏休みにインドに来ない?僕、インドの何処かにいるからー。なんてことになり、1人でインドは不安だし旅慣れた人と行くのもいいかもしれないなんて打算も働いて、じゃあ、夏休みに、チケット取れたら連絡します。なんてトントン拍子に私はインドに。

待ち合わせの定番は渋谷ハチ公とか銀座ライオン像とか、新宿アルタ前とか(全部古い…)だけど、彼との初待ち合わせは、インド、ムンバイ空港。だ、大丈夫かな。まあなんとかなるやろとカレー臭プンプンの空港に降り立つと、向こうからヒッピーよろしくドレッドヘアにサンダル履いてタイダイ短パン&ジミヘンTシャツ着た東洋人が向こうからやあやあとニコニコ笑ってやってくる。一瞬でヤバイやつだ。と思ったけど、クアラルンプールかなんか経由しての深夜着のムンバイでチョコレート色したインド人に囲まれた私は、ここでは彼を頼るしかないと腹を決めて、どどどうも、こんにちわ。よ、よろしくお願いします。とオートリキシャに2人乗り込み生温い南国の風に吹かれて宿に向かう。

案内されたのは空港近くの小さくて電気をつけても薄暗いボロいゲストハウスで、それでもそれまでの旅の基準ではエアコン付きシャワー付きは高級ゲストハウスで、奮発して予約したと彼は笑っていた。ので、ゲー掘っ立て小屋か、と思ったことは伏せておいた。なんだかこの先不安だな。いや、インドに来たくせに何を求めているんだと、自分に喝を入れて部屋に入ると、ツインがなくて、ダブルなんだけど、いい?と申し訳なさそうに彼が言う。(確かに海外のゲストハウスにはツインは少なく、2人で泊まるならダブルが多い、チコ調べ)

良いも悪いもナイ、深夜のインド、今ここを飛び出してひとり宿を探す気力もなし、私もオボコでもなし、別に彼とのラブアフェアーを期待しているわけでなし、そもそも論ライブハウス以外で会うの初めてだし何もありようがないしな、長旅のバックパッカーには男女のルームシェアも普通なんだろうと、走馬灯のように一瞬で考えて、懐の大きいところを見せようと男気だして、ええ、大丈夫ですと引きつって笑う。

じゃあ、とぎこちなく2人ベットに入り、ぎこちなく所在なくモゾモゾと身体の収まりの良い場所をベッドに探す。偶然に互いの体の端が触れる。あ、ゴメンという彼。ふと、私が、ベットの真ん中に線を引くからここからこっちに入ってこないでください。って言ったらどうしますか?って聞いたら、しばらく考えて、彼、地球の反対側から回ってチコちゃんの側にいきます。と答えた。

ズッキューンと音を立ててキューピットに心臓がぶち抜かれたのを私ははっきり感じた。や、や、やるなお主。地球周り?北アフリカ、キューバ経由からのホテルムンバイ?か!!こっちに来ないでという私の気持ちは尊重して、そっちに行きたいという自分の気持ちにも正直に行動できる。なあんてロマンチック。一休さんもビックリの名解答だ。負けた、負けましたよ、山田くんー座布団10枚持ってきてー。と、2人の間のラインは一瞬にして消えたのでした。

これには後日談もありまして

のちに帰国した彼に、あの時の名解答と話をしたら、綺麗さっぱり何も覚えていないという。え?まさか?と思ったけど、あの時は旅していて頭がワールドワイドで回っていたからそんなことを言ったのかもしれないけど、今の自分には思いもつかない発想だし、もし言ったんだとしたら、旅のせいだね。なんて言われて、旅から帰っても旅を温めていた私のハートが一気に冷めたのでした笑。

追記

確かに小遊三さん(エロ担当)の名解答なんだけどお題を出した方も居るわけで、コミニケーションてのは双方向で成立するわけで、妙ちきりんなことをそこで聞いた私もまた、時差と旅とインドのマジックにかかり冴えていたと言えるのかもしれない。=自画自賛







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