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「バスケは好きですか?」込められた熱き想い。映画『THE FIRST SLAM DUNK』感想

先日『THE FIRST SLAM DUNK』見てきました。
タイトルに書いたようにネタバレに関する配慮はいたしませんので、まだ見ていない人でネタバレが気になる方はブラウザバックでお願いいたします。




――では。

前提から話しますと、わたしは小中高はバスケをやっていて、しばらく間が開きましたが今も週一でバスケをやっています。NBAも好きです。
ジャンプを買っていたわけではないもの、バスケ部に所属していたわたしは『スラムダンク』が流行ったときに部員が増大したのを目の当たりにし、その影響力の強さにおののいたものです。

その後、単行本を集め、テストのたびに『スラムダンク』を全巻読みなおす学生時代をおくりました。誕生日や身長からTシャツの柄まで覚えていた時期もありました。『スラムダンク』は間違いなく人生で一番読みなおしたマンガでしょう。
沢山マンガを読んできたいまでも『スラムダンク』は人生で5本指にはいります。

そんな名作中の名作『スラムダンク』の映画が公開されると聞いてわたしが飛びつかないはずがありません――

――と、なったらかっこいいんですけど、実際はそうでもなく直前まで映画を見に行くつもりはありませんでした。
内容はうすうす想像はつくものの詳細は出ていなかったですし、アニメはそこまで真面目に見てもいなかったので、映像になるということに対して期待値が高くなかったわけです。

ですから、わたしが『THE FIRST SLAM DUNK』を見に行ったのは半ば偶然のようなものです。しかしこの映画を見て、思いもかけず涙を流したのもまた事実だったのでした。


予想のとおり、内容は山王戦。
そこに宮城リョータの過去の話をいり混ぜたような内容でした。リョータの話も涙腺にくる話ではありましたが、わたしがとにかく涙を流さざる得なかったのはそこではありません。「湘北vs山王」というこの擦り切れるほど読んだ一戦。それがわたしの涙を誘ったのです。

試合のシーンは基本的にCGで描かれており、そこが公開前には物議をかもしていたポイントでしたね。しかしふたを開けてみれば、絵では再現しきれないそのリアルな動きは圧倒的な臨場感をうみだしていました。

上記したようにわたしは長いことバスケをやってきた人間で、バスケをやっている人間から見てもかなり本格的な動きだと感じました。それもコートの上にいる10人すべてがそんな本格的な動きをしているのですから、フルCGでやろうと決断したのは完全に正解だったと思います。とてもすばらしかったです。

半面、削られたポイントもいくつかありました。
もちろん2時間という制約があるなかですから、いろんなエピソードが削られるのは仕方がありません。三井vs一ノ倉はありましたけど、前半山場とでもいうべき花道vs丸男はすべてカット
急に山王戦からはじまることを考慮してか、魚住が「泥にまみれろよ」とゴリにはっぱをかける名シーンもなくなりました。ついでに魚住でいうと「そのデカい体はそのためにあるんだ!」と「シシューーーー!!」も欲しかったです。

余談ですけど、深津がとられる「インテンショナルファール」が「インテンショナルファール」のままかどうか、っていうのは個人的に結構ドキドキしていたシーンではありました。
今だとインテンショナルファールは「アンスポーツマンライクファール」ですし、そもそも前半後半じゃなくて4クォーター制。あの場面でもし「アンスポーツマンライクファール!!」って言われた日にはがっかりしたこと間違いなしでしたからね。

――話がそれました。カットされたのはエピソードだけではありません。

原作に比べるとかなり意図的に排除されていたのが、キャラの顔に寄ったシーンやギャグシーン。それにナレーションのシーンも減っていたように思います。
たとえば試合始まってすぐ、リョータから桜木に「合図おくるからな!」という言葉の通り、「い”ーっ!!」という顔をし、花道がそれに「い”ーっ!!」と答えるカット。
そのシーンありました。ありましたよ。でもかなりあっさりだったはずです。

ナレーションでいうと試合終盤、堂本監督がタイムアウトを取りやめるシーン。

「堂本監督は一度取りかけたタイムアウトを取り消した。桜木は明らかに限界を超えている。タイムアウトを放棄する代わりに交代させる機会も与えない。」

(記憶だよりなので正確性は保証いたしません

的なナレーションはオールカット。
このシーン、初見では映像だけをみて絶対監督の意図を察するのはかなり難しいでしょう。いやまあ、もともとキャラの紹介もなく、急に山王戦から始まるんですから、初見のかた向けにはできてませんけどね。

まだありますよ。「左手はそえるだけ……」ですよ。
これも花道がボソッとつぶやいているのは見てとれますが、実際に音は聞こえるレベルでは入っていません。
もちろんわたしを含め原作厨のかたがたの頭のなかでは鮮明に聞こえたかと思いますが、これが音としては聞こえてこなかったのは好き嫌いのわかれる部分だったのではないでしょうか。

とにかくこの辺りのカットされた部分に関しては、尺の関係の部分はのぞいてもさみしさを感じなかったかといえばウソです。それだけ原作を愛してきたのですから。どのシーンもかけがえのないシーンなのですから。
でも、そのカットされた部分こそが泣かされた最大のポイントだったようにも思うのです。

「あ、ここはこうだったはずだ」「ここのシーンではあいつが出てきて……」「このシーンはツライな。でも次は確かこうくるはずだ……」

そうやってわたしはシーンがひとつすすむごとに自分に問いかけるのです。死ぬほど読んで頭に刻みこんだ記憶のトビラをチクイチ開き、自らと対話するのです。
仮にこれが、原作に限りなく近いものだったら、わたしはこういう見方をしなかったはずです。原作と違いがあるからこそ、強く自らを省みながら、そこで展開される戦いのゆくへを、しかと目に焼きつけたのです。

結果として、ただ見るにとどまらず、これまで『スラムダンク』というマンガを好きになってからの人生を鑑みているような心境におちいりました。
いってみればそれは走馬灯のようなもの。自分はコートにたっているいずれかのキャラクター(もしくは観客席のお客さん)であり、死ぬ間際に「栄光時代」を思い出しているような、そんな感覚にとらわれたような気がしました。

――いやごめん。我ながらそれはさすがに言いすぎだと思うんですけど、そういう要素は確かにあったような気がしたんです。

試合の流れは完全に頭に入っているわけですし、リョータの話も短編「ピアス」からの連想があったので、そこまで意外な流れではありません。
単にそこでくり広げられる物語に涙したわけではない。そう考えるとやはりこの、「自らとの対話」こそが、今作映画『THE FIRST SLAM DUNK』における最大の魅力であり、わたしが涙を流したポイントであったように思うのでした。

「人は欠損に恋をする」などという話をどこかで聞いたことがありますが、まさにそのケースなのではないでしょうか。どこかを引き立たせるために欠けた部分がある。そして欠けた部分があるからこそ強く愛してしまう。
そんな人生訓のようなことを今作に教えられているような気になりました。

もちろん未読であっても、山王戦という試合は珠玉の一戦であることは間違いありませんし、リョータの話だけみても普通にいい話です。だからいきなり見に行った人にだって楽しめるポイントは沢山あります。
でも、原作に対して愛を積み重ねてきた人にだけ感じられる感情というものもあったのだろうなぁ、と感じずにはいられません。

せっかく出てきたので「ピアス」の話もいたしましょうか。
ジャンプにのって、そのあとヤンジャンに1回乗ったきりの先生の読み切りで、現在も単行本に未収録の短編です。わたしはヤンジャンにのったときにコンビニで1回だけ立読みしました。
現在では掲載されているヤンジャンはかなり高騰しているようで、読むに読めない状態のようですね。買っとけばよかったです(笑 

一度読んだきりであまり記憶も定かでないのですけど、当時はわたしはこれはパラレルワールドの話だと認識していました。「リョータ」とか「彩子」とか出てくるのですが、あまりにも重要なキャラクターの設定なのに本編で語られなさすぎていることが腹落ちしなかったといいますか。
当時はTwitterのようなものはなかったですから、考察もはかどりません。映画を見てから考えると、そのままリョータの話ということで良かったのかなと思いますね。

公式設定になったわけですし、そのうちどこかに収録してくれることを祈ってやみません。(追記:読めるようになりましたね)

今作『THE FIRST SLAM DUNK』ですが、みなさんもおっしゃっているようにその臨場感は相当なものです。

上でも語ったように、ナレーションや細かいギャグなどの比率を少なくすることで、まるで実際にそこで試合が行われており、その試合をコートの脇から観戦しているような視聴感を生み出しているのです。

しかしここはマンガと比べたときわたし自身も「物足りなさ」を感じたポイントでもありました。おそらく今作に不満を感じた人もここがネックになったのではないでしょうか。
多くのエピソードやこの辺りのマンガ的なシーンが排除されたことが受け入れられず、「やっぱり原作のほうがいいじゃないか!」となってしまったのではないかと思います。

原作の雰囲気を生かすのであれば、もっとマンガ的な演出があってもよかったと思います。でも、リアルさを追求するなら、試合の流れを止めるシーンは排除されるべきで、ここはトレードオフだったのです。

そして井上先生は臨場感を、リアルさを優先させました。
そこにあった思いはなにか――。


その答えは、単に『スラムダンク』という作品だけにとどまらず、「バスケットというスポーツをもっと愛してほしい」「バスケット自体をもっと好きになってほしい」という思いなのではないでしょうか。そうみなさんご存じ「バスケットはお好きですか?」です。

これまで『スラムダンク』などのバスケマンガは読んだことがあって、神様マイケル・ジョーダンは知っていても、NBAやBリーグの試合は見たことがない。実際のスポーツとしてのバスケットに触れたことのない人も沢山いるのではないでしょうか。

そういう多くの人にバスケット自体をもっと好きになってほしい。

『スラムダンク』という著名な作品を、できるだけ実際の試合を感じられる形で再現することで、バスケットというスポーツへの導きを形にしたのではないでしょうか。

そしてこのタイミングでの公開にもきっかけがあったように思います。
2019年。日本人で初めてNBAドラフト1巡目指名を受けた選手が生まれたことです。そう八村塁です。

現在のNBAでは八村塁だけでなく渡邊雄太という選手も絶賛活躍中であり、国内ではBリーグが数年前から発足しています。
もちろんマイケル・ジョーダンが活躍していた時代に盛り上がったりはしていましたが、現実的にバスケットをプレイするという意味では、これまでの日本のバスケットの歴史のなかで一番ホットといっても過言ではないでしょう。

井上雄彦先生は、スラムダンク奨学金というバスケのための奨学金制度を運営していますし、ずっとバスケットを後押ししてきました。
田臥勇太がNBAに行ったときも大きな期待を抱いたでしょう。そして現在はあのときの何倍も大きな期待を抱くことができているはずです。

そんなときに自分が切れる最大のカードはなにか。そう考えたときに真っ先に浮かんだのが『スラムダンク』だったのではないでしょうか。

『スラムダンク』を通して、もっと多くの人に「バスケット」を好きになってほしい。

その思いが形になったのが今作『THE FIRST SLAM DUNK』であり、出来るだけリアルな形で蘇らせるという方向へいざなう原動力になったのではないでしょうか。

またこの映画の方向を決めるうえで、田臥勇太という日本人初のNBAプレーヤーの存在も大きな意味があったように思います。

映画の最後でリョータがアメリカの大学に行っているシーンには皆様驚かれたと思います。わたしももちろん驚きました。そして同時に湘北ではないユニフォーム姿に、田臥勇太という選手の姿が重なって見えました。

『スラムダンク』には山王工業という最強の称号をもつ高校が出てきます。映画での対戦相手ですね。この山王工業のモデルは能代工業高校(現:能代科学技術高等学校)です。どちらも秋田県の代表であることからも間違いないでしょう。

そしてその能代工業高校でスピードとクイックネスを武器に、いち時代を築いた選手が田臥勇太です。
かりに『スラムダンク』の連載開始が5年遅かったら、山王工業のポイントガードは背は高くないけれど、スピードとクイックネスに優れたキャラクターだったはずです。

いわゆる田伏時代と言われているのが1996年から1998年。『スラムダンク』の連載が1990年から1996年なので、連載中に先生が直接影響を受けたということはないと思います。
しかし連載後には何度も対談などをする機会があったでしょうし、日本人として初めてNBAのコートを踏んだ田臥勇太選手に創作のための大きなモチベーションをもらったことは間違いないでしょう。

そんな田臥勇太選手への感謝や、今も現役で頑張っている田臥勇太へのエール。
そんな気持ちが宮城リョータという背は高くないけれど、スピードとクイックネスに優れたポイントガードのアメリカ挑戦というシーンに現れたのではないでしょうか。

そんなこんなな『THE FIRST SLAM DUNK』。
原作好きのわたしとしては、原作のほうがいいと感じる部分もありました。そして映画のほうがいいと感じる部分もありました。そんないろんな思いが合わさって、結果としては「涙を流さざる得なかった」という感想につながっています。

何度か書いているように原作を読んでいない人は、さすがに設定とかキャラとかがまったくわからないことに戸惑うかと思うので、一度は読んでから見に行くほうがよいかと思います。この人、急に赤い髪生えたけどなに!?とかビックリすると思うので。

これまで原作を愛してきた人は早く見に行ってください。
原作のほうが良いと感じる人もいるでしょう。でもこの映画には見る価値があります。

わたしもまた見に行こうかと思います。
長くなりましたが、お付き合いありがとうございます。
『スラムダンク』は最高ですね。


あ、蛇足なんですけど、当時はフローターって流行ってなかったから「へなちょこシュート」なんてカッコ悪い名前つけられちゃったけど、今は結構みんな使いますもんねフローター。かわいそうな沢北って思いました(笑


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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)