少年よ、『小』志を抱け。(不良少年とキリスト/坂口安吾)

然し、生きていると、疲れるね。(中略)戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。

――本文より抜粋

僕は、勝ち負けが嫌いだ。


勝ち組。負け組。何を以て、そんな風にいっているんだろう。僕には、全くわからないよ。……ううん、それは、ウソだ。本当は、よくよくわかっている。なぜなら、僕は弱者だから。社会的な、弱者だから。僕は、障がい者。障がいを持っているだけで、弱者扱いされる。……そりゃ、持っている『だけ』なんて、気軽には云えないけどさ。実際のところ、弱者であるがゆえに、僕は、息苦しい。/生き苦しい。


社会は、海。僕は、かなづち。すいすい泳げるのが、勝ち組。ごぼごぼ溺れるのが、負け組。僕は、負け組。……ええい、勝手に決めるんじゃない。僕は、勝ち組でも、負け組でもない。勝ちも負けも、他人が協議して決めるものだ。(勝ち負けなんて、スポーツだけで充分だ。)じゃあ、人生における勝ち負けは、誰が判定しているんだ。誰も、いないはずだ。なら、はなから、勝ちも負けも、存在していない。僕は、かなづちだ。社会の荒波にもまれ、けれど、決して生きるのを諦めない、かなづちだ。

負けぬとは、戦う、ということです。(中略)人間は、決して、勝ちません。ただ、負けないのだ。勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。

――本文より抜粋

僕は、勝ち負けが嫌いだ。それを語る、人間が嫌いだ。そのはずだったのに。ああ。どうして、こんなに、心臓が、どくんどくん、といっているのか。どうして、こんなに、身体が、ぶるぶる、と震えているのか。勝ち負けなんて、そんなものは無い、と。勝ち負けなんて、大嫌いだ、と。そう、いっていたのに。


僕は、こだわっていたんじゃないか。負けたくない、負けたくない……。勝ちたい、勝ちたい……わけじゃない。負けたくない、だけなんだ。


……あはは。いっていることが、坂口大先生と、同じじゃないか。何に負けたくないのか、何を以て負けるのか、僕にもわからない。でも、それはきっと、僕が諦めたときだ。かなづちであることを、甘んじて受け入れ、ごぼごぼ溺れる。それが、負けだ。僕は、それを認めない。だから、生きる。負けないために、生きている。

原子バクダンを発見するのは、学問じゃないのです。学問とは、限度の発見にあるのだよ。(中略)私は、そのために戦う。

――本文より抜粋

僕は、生きる。
生きつづけるために。


僕は、負けない。
負けつづけないために。


僕は、戦う。
戦いつづける。

2/5更新

不良少年とキリスト(「不良少年とキリスト」収録)/坂口安吾(1949年)

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