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たゆたう(#ラブリーミュージック/ラブリーサマーちゃん)

今年は、一度も花火大会に行かなかった。

まだ、7月だけど。

昨夜、ふらっと外に出た。
特に、当てがあるわけじゃなかった。
強いていえば、歩きたくなったから。

猛暑になってから、あまり外に出なくなった。
ほんの5分、10分歩くだけで、体力が奪われていくからだ。

用があるときは車を使うけど、
なるたけ車を使いたくない僕は、
うちでじっとしていることが多い。
それは、じっとしていられない僕にとって酷なことだった。

だから僕は、
陽が沈んでから、そうすることにした。

スマホに入れているプレイリストをぼんやりと眺めていると、
ふと、「#ラブリーミュージック」というタイトルが目に止まった。

ラブリーミュージック。
ラブリーサマーちゃん。

僕は、
1曲目の「intro」を、何かに祈るようにそっと再生した。



彼女――ラブリーサマーちゃんを知ったのは4年前。

当時、自宅にも職場にも身の置き場が無かった僕は、
近場(とはいえ、車で20分)のTSUTAYAによく通っていた。

その日、
自分が試聴コーナーに立っていたのは、
何かの力が働いていたのかもしれない。

僕は、なんとなくそこにあるヘッドホンを取った。
その「なんとなく」が、僕が見ていた景色を変えた。

流れていたのは、「intro」だった。
アコギとスネアだけの、シンプルな音。
それに、彼女の声が少しずつ重なって――。

僕は、川べりにいた。
辺りは霧に包まれていて、何も見えない。
すぐそばで横たわっている川と、2人きりだった。
僕はただ、ぼんやりと呆けていて、
足元から立ち上ってくる水の匂いを感じていた。

僕は、そっとヘッドホンを戻した。
そのまま、TSUTAYAを後にした。
そのCDを購入したのは、3日後のことだった。



ふいに、空が明滅しているのに気が付いた。
それらは、緑、青、桃……様々な色の光彩を放っていた。

花火。

花火が、打ち上がっているんだろうか。

どこで? ……花火に飽いている僕は、それを知りたいとは思わなかった。

けれど、この景色には目を奪われていた。
この、見えない、聴こえない、ただ残滓だけが空に舞う景色には。

僕には、これで充分だと思った。

耳元では、ラブリーサマーちゃんが、
5曲目「ルミネセンス」の中を、ゆらゆらと所在なく泳いでいた。

いいな いいな みんな いいな
楽しそうだな いいな
花火見たいな
今度やろうかな
誰かいるかな
――ラブリーサマーちゃん『ルミネセンス』より引用

僕も、きっとそうだ。

いつでも。
どこでも。

所在なく、
ただ、ゆらゆらとたゆたう。

私の好きなもの(「#ラブリーミュージック」収録)/ラブリーサマーちゃん(2015年)

#ラブリーミュージック /ラブリーサマーちゃん(2015年)

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