夜を守りたかったボクのプレイリスト(ヴァリアス・アーティスト)

「眠れる」夜があって。


「眠れない」夜があって。


「眠りたい」夜があって。


「眠りたくない」夜があって。


どれにも当てはまらない夜もあって。


そんなときはいつも、ひどくからまったイヤホンのケーブルをほどいている。


「今夜は、何を聴こう?」


どんな夜でも、音楽だけは、そばにいてくれるから。

1.3 Gymnopédies: I. Lent et douloureux/
エリック・サティ

夜といえば、『ジムノペディ』。


こんなに夜の匂いがするピアノは、なかなか無い。


一瞬で、ボクの元に夜が訪れるんだから。


この曲は、『ジムノペディ』の第一番で、「ゆっくりと苦しみをもって」という演奏指示があるらしい。(Wikipedia参照)


夜にまで、苦しみを持ってこなくてもいいのにな。

2.Line/Takaaki Izumi

いっそのこと、自分と夜の境目も無くして、流れてしまおう。


「どこまで?」


それは、ボクにもわからないけど。


きっと、誰かが(もしくは、何かが)導いてくれるよ。音楽は、そのためにあるんだから。


「どこまで?」


「ちょっと、そこまで」


『そこ』はすぐ近くかもしれないし、もしかしたら、想像できない遥か彼方かもしれない。


それでも、いいよ。


夜は、まだまだ長いんだから。

3.sound asleep/Rook1e

「そろそろ眠ろうよ」


と、お誘いが来る。


ボクは、「どうしようか」ともったいぶった後に、やっぱり断る。


「もう少しだけ、ここにいさせて」


姿は見えないけど、ソレが少しだけ泣きそうになっているのがわかる。


ボクは、目に見えないソレに向かって話しかける。


「いずれは眠るんだから。それまで、もう少しだけ待っていて」

4.a cute date/Elijah Who

くすくす、くすくす。


今度は、笑い声が聞こえる。


「何なの」と訊いてみても、返事はない。


ソレは、くすくす、くすくす笑うだけ。


でも、厭な感じはしない。


ソレは、とっても愛らしく、とってもかわいらしい、夜の恋人。


「一緒に来る?」


試しに誘ってみると、ソレは気配を消してしまった。


なんだ、残念。

5.Sorry for Not Answering the Phone I'm Too Busy Trying to Fly Away/In Love With a Ghost

なんだか、少し寂しくなってきた。


理由のない寂しさは、この世で最も恐ろしいもの。


ボクは、ひとりぼっちなんだろうか?


夜は、ボクの相手をしてくれないんだろうか?


そんな心もとない不安は、ふとしたぬくもりに包まれ、パッと消えてしまった。


「返事をしなかっただけだよ」


と、ソレは言った。


返事くらいしてほしいな、とボクは思った。

6.air vent/avissiniyon

「寒い」と「寂しい」は、よく似ているらしい。


遠くの方で見つけた灯りは、ボクを心から安心させてくれた。

あの農夫たちは、自分たちのランプがささやかなテーブルだけを照らしていると思っている。だが、彼らから80キロ離れたところまで、その灯りの呼びかけは届いている。

――サン=テグジュペリ『夜間飛行』より引用

あれ、本当だったんだな。


もっと、もっと近くへ。


灯りは焚き火で、でもその周りには誰もいなくて。


けれど、誰かがいた痕跡があるだけで、ボクは幸福になれるのだった。

7.願い/ハンバートハンバート

ここに、誰かいたんだろうか?


ボクと同じように、寂しさを感受している誰かが。


けれど、この夜はボクだけのもの。


ボク以外の人間が、見つかるはずがない。


でも、この焚き火を用意したのはボクじゃない。


ボクだけのものと思っていた夜は、誰かのものでもあったんだ。


今は、どこにいるんだろう?


「それなら、せめて」


ボクは、焚き火の主の旅路が無事であることを祈った。

8.My Safe Place/小瀬村晶

空が白んできた。


そろそろ、ボクの旅も終わりかな。


ボクのための、誰かのための、夜の旅。


赤く燃えていた薪は、まっさらな炭となり、焚き火の終わりを告げていた。


もう少しだけ、ここにいようかな。


もう少しだけ……。


でも、あんまり居ると、離れづらくなってしまうから。


そろそろ行かなきゃ。

9.音楽のある風景/haruka nakamura

ボクは、ボクの場所へ戻る前に、行きたい場所があった。


行きたい場所。


行かなきゃいけない場所。


夜の内に見たい風景が、そこにあるんだよ。


焚き火の主にも、見せてあげたかったな。


きっと、いつか会えるよね。


ボクは、辿り着いた風景に、自分の体を滑り込ませた。

10.hibari/坂本龍一

そして、ボクは戻ってきた。


日の当たる場所へ。


ボクの生きる場所へ。


けれど、空は白んできたけど、きっとまだ夜だから。


あと少しだけ、夜の中に……。


ああ、でも。


眠りが、ボクの頭をさすってきた。


「今夜は、もうおしまい」


「つづきは、また今度」


ボクは、「そうだね」と一言返して、眠りについた。


そうだね。


きっと、また会えるよ。


夜に。


夜を生きる誰かに。

夜を守りたかったボクのプレイリスト(Spotifyより)(2020/08/25作成)

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