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また、アルネとお茶をしている

8/19。

5:00起床。

天気は晴れ。





――おはよう。

――……。

――「おはよう」っていったら、「おはよう」って返してよ。

――おはよう。


今朝も、アルネがやって来た。


ぼくにしか見えない、時々しか現れない「はず」の女の子。


――今日は、紅茶がいい。

――紅茶……ないな。

――じゃあ、コーヒーがいい。甘いの。

――インスタントでよければ、あるけど。

――キャラメルマキアート!


アルネはいつも明るくて、笑っていて、幸福そうだ。


ぼくはそれを、とてもうらやましく思う。


――変な顔。


アルネは、ぼくの眼前で指先を突き付けた。


――変な顔なのは、いつものことだよ。

――そうだね。

――否定されないと、それはそれで悲しいな。

――どうして、変な顔をしてるの?


アルネは心底ふしぎそうな顔をしているけど、ぼくには、何がどう変なのかわからない。そりゃ、自分が良い顔をしているとは思っていないけど。


――怒ってるように見える? それとも、悲しんでるように見える?

――どっちでもない。

――じゃあ、

――何にもない。空っぽ。そんな顔してる。


ぼくは思わず、自分の顔に触れてみた。表情筋は、まったく動いていない。まあ、それはそうだ。今は、喜怒哀楽のどれも機能していないんだから。


――「喜」も「楽」もないの? 私がいるのに?

――たしかに。アルネがいるのに、うれしくも楽しくもないなんて、おかしいな。


ぼくは目を閉じて、瞼の裏側の景色を見た。自分が傷付けてきた人、これから傷付けることになる人、色んな人がそこにいる。


――「笑っちゃいけない」「幸せになっちゃいけない」なんて、バカみたいだけどさ。

――うん。

――でも、誰かを傷付けて泣かせてきたぼくが、大手を振って歩いていいのか、わからないんだよ。

――その『誰か』には、君も入ってるんじゃないの?


アルネは、今度は指先じゃなくて、自分の顔をぼくの顔に近付けた。


――たしかに、ぼくもさんざん傷付いてきたし、泣いてきたよ。でも、その分さ、ぼくも同じことを、

――関係ないよ。

――あるよ。

――自分が背負った罪も、誰かに背負わせた罪も、きっと一生消えないよ。でもね、


アルネは、やっぱり幸福そうに笑った。


――たくさん背負っていると、重いでしょ? 私も背負ってあげる。


ぼくは、アルネを見た。アルネも、ぼくを見た。ぼくの頬の上を、熱が流れた。


――アルネも、ぼくの一部だけどね。ぼくの、イマジナリーフレンド。

――それでも、「たった一人で背負っている」って、思わなくて済むでしょ?

――たしかに。


ぼくは、アルネの空になったカップを受け取った。


――おかわりする? 何がいい?

――今度は、ブラックコーヒーがいい。

――はいはい。


そしてぼくは、かわいい共犯者のために豆から挽くのだった。





「僕だけが、鳴いている」


これは、
僕と、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。


連載中。


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