また、アルネとお茶をしている
8/19。
5:00起床。
天気は晴れ。
*
――おはよう。
――……。
――「おはよう」っていったら、「おはよう」って返してよ。
――おはよう。
今朝も、アルネがやって来た。
ぼくにしか見えない、時々しか現れない「はず」の女の子。
――今日は、紅茶がいい。
――紅茶……ないな。
――じゃあ、コーヒーがいい。甘いの。
――インスタントでよければ、あるけど。
――キャラメルマキアート!
アルネはいつも明るくて、笑っていて、幸福そうだ。
ぼくはそれを、とてもうらやましく思う。
――変な顔。
アルネは、ぼくの眼前で指先を突き付けた。
――変な顔なのは、いつものことだよ。
――そうだね。
――否定されないと、それはそれで悲しいな。
――どうして、変な顔をしてるの?
アルネは心底ふしぎそうな顔をしているけど、ぼくには、何がどう変なのかわからない。そりゃ、自分が良い顔をしているとは思っていないけど。
――怒ってるように見える? それとも、悲しんでるように見える?
――どっちでもない。
――じゃあ、
――何にもない。空っぽ。そんな顔してる。
ぼくは思わず、自分の顔に触れてみた。表情筋は、まったく動いていない。まあ、それはそうだ。今は、喜怒哀楽のどれも機能していないんだから。
――「喜」も「楽」もないの? 私がいるのに?
――たしかに。アルネがいるのに、うれしくも楽しくもないなんて、おかしいな。
ぼくは目を閉じて、瞼の裏側の景色を見た。自分が傷付けてきた人、これから傷付けることになる人、色んな人がそこにいる。
――「笑っちゃいけない」「幸せになっちゃいけない」なんて、バカみたいだけどさ。
――うん。
――でも、誰かを傷付けて泣かせてきたぼくが、大手を振って歩いていいのか、わからないんだよ。
――その『誰か』には、君も入ってるんじゃないの?
アルネは、今度は指先じゃなくて、自分の顔をぼくの顔に近付けた。
――たしかに、ぼくもさんざん傷付いてきたし、泣いてきたよ。でも、その分さ、ぼくも同じことを、
――関係ないよ。
――あるよ。
――自分が背負った罪も、誰かに背負わせた罪も、きっと一生消えないよ。でもね、
アルネは、やっぱり幸福そうに笑った。
――たくさん背負っていると、重いでしょ? 私も背負ってあげる。
ぼくは、アルネを見た。アルネも、ぼくを見た。ぼくの頬の上を、熱が流れた。
――アルネも、ぼくの一部だけどね。ぼくの、イマジナリーフレンド。
――それでも、「たった一人で背負っている」って、思わなくて済むでしょ?
――たしかに。
ぼくは、アルネの空になったカップを受け取った。
――おかわりする? 何がいい?
――今度は、ブラックコーヒーがいい。
――はいはい。
そしてぼくは、かわいい共犯者のために豆から挽くのだった。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
僕と、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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