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ムリだろ、物語書くとか 『ポニイテイル』★21★

せっかくの七夕なのに、いつもと同じ宇宙。

少しも輝いていない星空の下で、花園あどは珍しくまともな提案をした。

「もしかして……ふうちゃんをココに呼んだ方がよくない?」

真神村流輝もぼさぼさの前髪を払って、ハムスタに同意する。

「そっか。鈴原は下のブースにいるんだもんな」

悪魔と女神をミックスしたような城主レエの意見は、やせパンダたちとは逆だった。

「あたしは呼ばない方がいいと思う」

タブレットにくっきりとF4ブースが映される。ピンク色のかわいらしい壁紙の部屋とは不釣り合いの真剣な表情で、バンビはモニタの文字や数字を追っていた。リンリン――誕生日なのに、そんな気分じゃないんだ。

あんた、何でも間に合わないよね
織り姫なるんだったら中学受験なんてしないよ
どの中学に入るかでも変わってくるし、この先、社会も法制度も変わるでしょ
不登校とかダサ過ぎでしょ
あんたが好きなブラさんだって大人じゃん
大人だからキライとかダサって感じなんだけど
ほら、昔にも戦争があったみたいなこと、歴史で習ったでしょ


せっかくの水色のワンピース。初めて見たあのワンピースは、もしかしてリンリンのパパからのバースデープレゼント?たったひとりでパソコンのむこうの何かと格闘している。真新しいワンピースを着て。たったひとりで。


親友なのに?
ていうか本当に親友か?
オマエら、今日だけでも何回ケンカしてんだよ


「あの子はほら、取り込み中。さみしいときは自分から言ってくる子だからヘーキ。ときどき思い出して欲しいくらいは思っているかもしれないけど」

「あの……やっぱり」

いきなりハムスタがもじもじしている。

「どうしようかなっていうか、かなり自信ないしハズいんだけど」

「ん? トイレか?」

「ちがうよ」

「おやつ?」

「ちがうって。うーん、ええと、なんか、うーん」

「ん? ちょっとちょっと、あどちゃんどうしたの? 大丈夫?」

不安そうに尋ねるレエに、あどは目をつぶり、息を小さく吸った後、思い切って言葉を放った。そう――鈴原風が「スキ」という単語をうっかり放ったあのときのように。

「ウチを……あの部屋に連れてってほしいです。Gの5に!」

「は?」

黒いドレスの城主より先に、白いシャツの助手が反応した。

「まだセッティングされてないって言われただろ、さっき。まったく人の話を聞かないヤツだな」

「うん。いいよ」

ティフォージュ城の主が了承する。

「え? いいんですか?」

「完成はしていないけど、使えるようにはなっているから。でも、どうして急に?」

「ええとですね。うーんと、あの、いきなりなんだけど……ウチ、書ける気がして」

「書ける気?」

「 マカムラッチ、たしか原稿あまってるって言ってたよね、今も持ってる?」

屋上をあとにして、幹エレベータで3人は7階へ移動した。口だけ石化したようにあどが黙ったままなので、誰も言葉を発しなかった。

究極に人工的なマカムラのJ1に対し、あどにプレゼントされたG5ブースには空や地面や木があって、テントに巣箱、赤いリンゴ……一般的なフツーの図書館にあるはずのないものばかり、ごちゃごちゃと混在している。

「おお! もう完成してるじゃないですか」

「でも、もっとヘンじゃないとダメって。お嬢さんいわく」

大きな公園によくあるような、丸太が組み合わされた四人掛けのテーブルつきベンチに3人で座ると、新しく手に入れた自分の部屋へのコメントはいっさい無いまま、あどはいきなり本題に入った。

「間に合わなかったけど、実はウチふうちゃんに……物語をプレゼントしようかなって思ってたんです。ふうちゃん、本が大好きだから」

「物語をプレゼント?」

「はい。リンリン、前に誰かに本をプレゼントされたことがあって、そのとき、メチャクチャ喜んでたんです。『バースデー物語』って本」

「あれな! 砂漠の国のラクダの話」

「砂漠の話だけじゃないよ。海の話も、山の話もある」

「メチャクチャ喜んでたの?」

「毎日読んでましたよ! 真面目なリンリンが授業中もこそこそ読んでるから、ウチも勝手に借りて読んだんだけど、12も面白い話が入ってるから、何回読んでも飽きないんです。最後を読む頃には最初の方を忘れちゃってるから、また最初から読めて」

「お得な脳だね」

「だからウチも30くらい、面白い話ばっかり入ってる物語を書いてあーげよっ!って思ってたんだけど、30どころか1つも……」

「あはは。単純なヤツだな。ムリだろ、物語書くとか。そういうときはフツーさ、書くんじゃなくて面白い本を選んできてプレゼントだろ」

「でもほら、クッキーだって買えば1秒だけど手作りだからラブラブなわけでしょ」

「そう。そうね。ホントにその通り」

レエがやさしく同意してくれたので、あどは小刻みに体をカタカタさせた。

「ですよね。本もそうかなって思って。それにふうちゃんの好みを知ってるウチが何か書けば、買うよりもゼッタイ、超面白い話になるはずだし」

「スゲー発想。練習もしないで自分でイキナリ書けるって思う、その自信がスゲー」

「だって前にオルフェさまに言われたんだから。ウチは将来作家になるって。だからコレは今こそ書けッ!って展開かなと思って」

「で、あどちゃんはどんな話を書こうと思ったの?」

「思いつかないんです。いつもいっぱい妄想してんのに、鉛筆がぴくりとも動かないんです。今週は宿題も授業も全部やらないで、物語を書こうとしたんだけど、無理だった……」

「宿題も授業もスルーなのはいつものことだろ」

「でもさ、ぜんぜん書けないとかおかしくない? イッコくらい書けるんじゃないかなって思ってたのに、唯一書けたのはむかし話っていうか、『桃太郎』を……なんていうか、5万倍くらいつまらなくしたヘンな話」

「おお! でも一応、書けたんだ。すげぇな」

「スゴくないって」

「タイトルは?」

「ふうちゃんが主人公だから……風太郎」


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ポニイのテイル★21★ この一言がすごい

今回のタイトル画も『みんなのフォトギャラリー』を利用しました。3回目です。物語っぽいところ。モニターっぽいところ。ひとそれぞれの思惑がうずまいているところ。hianiho kumさんありがとうございます!

先月のこと、塾の女の子が高校入試で2分間スピーチをすることになりました。美術寄りの高校です。そのスピーチを本人と2人で考えたのですが、その中に次のようなフレーズがありました。

ひとりで毎日描いていた私に1つの転機が訪れました。自分で描いていた絵を友だちにプレゼントすることにしたのです。

noteでもそうですが、他者に向けて表現することにチャレンジした人は、まずそれだけですごいと思います。

マカムラくんが、

「おお! でも一応、書けたんだ。すげぇな」

と感想をもらしています。私はこの一言を言えることがすげぇなと思います。マカムラくんは読書感想文をサラサラ書いていたけれど、書くということのすごさを知っているんだと思う。作ることの大変さを知っているんだ。

自分は書けないと思っている人が書き始める。他者へ向けての創作の第一歩の瞬間がいつ訪れるか。

そしてあどちゃんが

スゴくないって

とふつうに返しているのもすごいと思う。その難しさをわかっている人は、チャレンジしている人をすごいと評価できる。しかしチャレンジしている人はわかる。それがスゴくもなんともないということを。自分がまだまだで、目指すところはこんなもんじゃないって。

創作活動している、というところを評価されてもしかたない。問題はそれを形にできるかどうか。形にして受け取ってもらえるかどうか

相手が喜んでいるビジョンを抱いた。それを表現したいというパッションはある。でもそれをするスキルがない――現実の世界だったら、四の五の言わずにスキルを磨けという話になるのかな。あるいはお前は無理だ、バカか。または、ありがとう、パッションだけでもうれしい、すごいことだよ、という話になるのかな。レエさんはふうちゃんに言われました。

「でも、もっとヘンじゃないとダメって。お嬢さんいわく」

そうじゃない。こんなもんじゃない。こんなものいらない。ちがう。もっともっと、強烈なミラクルを生み出せる。

そこそこのしつらえで満足しない。風太郎で満足しない。自分のためにチャレンジしてくれてありがとうなんて言わない。口先でほめる・小さなほめられるだけで終わらせない。最初に見えていた、素敵なビジョンに向かわなくては。途中で見えてきた、届かないかもしれないところを思い描き続けたい。

「だって前にオルフェさまに言われたんだから。ウチは将来作家になるって。だからコレは今こそ書けッ!って展開かなと思って」

このビジョンとパッションとスキルの問題はきっと解決できる。

それぞれの持ち場で力を発揮し、それを合わせること。

表現し続けること。表現を見続けること。

ミラクルのイメージを共有すること。

私自身がどうして書いているか。それは『2018年にやりたいこと』で明確にしている。時間も空間も現実も夢も超えて、周りの人を巻き込んでいく。昔から立候補は絶対しないタイプなんだけれど、つぼんでいたら人生が終わってしまう。もうこのnoteという場に、出し尽くしたいと思った。

***

『ポニイテイル』と並走する形で『ヴィンセント・海馬くん』の連載を始めました。執筆の経緯はまたどこかで書きます。すでに読んでくださった方には本当に感謝しています!

(1)筋書きを決めずに書く。

(2)1時間以内で書く。

(3)姿勢をただし、胸を張って書く。

の3つのルールを決めて書きました。そしてたぶん、noteを書かれている多くの人と同じように、「書くこと自体」よりも、表現活動に使うためだけの「1時間」を、どのようにスケジュールに組み込むが難しいです・・・

ありがとうございました。楽しい日曜日を!

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